おさらい。「株式会社ジャニーズ事務所」、創業1962年6月、設立1975年1月。年間売上高約1000億円といわれる突出した規模の芸能プロダクションであり(株式非公開)、男性タレント専門であることと徹底した育成システムを擁することを特徴としている。
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たとえば「株式会社よしもとクリエイティブ・エージェンシー」の年間売上高は約333億8000万円(2009年3月期)である。いささか古いデータだけれどもこれより新しいものが見当たらないのでご容赦いただきたい。和田アキ子(66)が月給をもらって在籍する「株式会社ホリプロ」は単体で約158億4000万円、グループ会社との連結で約209億7000万円(2011年3月期)。ジャニーズ事務所がいかにダントツ、他を圧倒しているかがおわかりいただけるだろう。
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ちなみに分社方針を取っているのでそのまま比較はできないけれども、周防郁雄率いる「株式会社バーニングプロダクション」は約18億円(2007年5月現在)。バーニンググループは約20社あり、まあすべての売上高を合計しても1000億円にはとても手が届かない。おそらく500億円にも満たないのではないだろうか。「株式会社田辺エージェンシー」は非公開。こんな時期に浅草に劇場「浅草九劇」をオープンさせて、めでたいんだか悲しいんだかの「株式会社レプロエンタテインメント」も公表していない。
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売上高1000億円を超える企業は日本全体で約830社しかない。上場企業の24%、すべての企業のわずか0.02%にすぎないのである。しかも現状のタレント、スタッフ全員をを抱えたまま、なにもしなくても100年はやっていける内部留保があると豪語しているらしいから畏れ入る。
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タレント数。ジャニーズ事務所所属のただいま活動中タレントは約90名(近藤マッチ彦含む)。これに加えてデビュー前のタレント、正確には事務所の公式ホームページにプロフィールページが設けられていないタレントであるジャニーズJr.および関西Jr.、これにさらにJr.の枠にもまだ入れてもらえない研修生と呼ばれるメンバーがいる。すべて合計するとその数は約700人といわれる。
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まあデカい。宝塚歌劇団の場合は各組と専科、研究科あわせて約400人。これに予科、本科各1年の2年制の宝塚音楽学校(「宝塚歌劇団団員養成所」)の年次定員50人を加えると合計約500人ということになる。ジャニーズ事務所は宝塚歌劇団よりも大きい。
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そもそもはジャニー喜多川の趣味を生かした少年野球チームからはじまったジャニーズは、第二次世界大戦後の昭和とそれに続く平成の大衆文化の大きな一面を担ってきた。昭和40年代以降に思春期を迎えた日本人女性はすべからくジャニーズのタレントたちに憧れを抱いた経験があるはずだ。
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おそらくジャニーズ以前、ジャニーズ時代、ジャニーズ以後で日本の芸能・文化史は大きく色分けされるはずである。いまここで詳細に論じるのはご容赦いただきたいけれども、たとえばいわゆるKawaii文化の成立にジャニーズの存在が大きく関わっているはずだし、ジャニーズの終りはそのまま「歌謡曲」の最期となり、また音楽産業の大きな転換期と重なるはずである。
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草食男子だとか絶食男子だとかにも通底する男の子たちの中性化もまたジャニーズからのありがたい贈りものである。ジャニーズのタレントにキャーキャー熱を上げる同世代の女の子たちを見れば、モテたい男の子は自然にジャニタレっぽくもなるというものである。
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ジャニタレっぽい外見は、仮想ジャニタレ的内面をつくる。男の子は勇んで選ばれる側に立つ。ジャニタレのように女の子のほうから寄ってきてくれる男の子こそが彼らのロールモデルなのである。ガツガツと女の子の関心を買いに行くようなマネはしない。
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しかし一方、女の子たちの人生のパートナー、稼ぎ手を選ぶ目はしたたかなのである。ただジャニタレっぽいだけでチャラチャラした男は最終的に相手にされない。チャラチャラしていなくても密かにジャニタレをロールモデルにしているような、しかしふつうの外見の男の子には目もくれない。世の中そんなものである。女性無料のカラオケスナックみたいなもの、女のいるところに男がフラフラ誘われていく。
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で、うっかりしているあいだに20代男の約40%もが童貞という事態に到ってしまう(相模ゴム工業株式会社のアンケート調査、対象1万4100人、2013年)。ペアリングが上手くいかない、結婚できない、子どもが生まれない。そして日本は滅びるのである。このままでは婚期を逃しそうだと焦っている女の子たちは、ジャニタレにうつつを抜かした過去の自分の付けが回ってきたと観念することである。あるいは、素敵な男の子たちはみんな妖怪ジャニー喜多川の餌食になってしまったのである。なにをいっておるのだか。
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こうして振り返ってみると、とたんにジャニーズが古めかしい過去の遺物のように見えてくる。年を元号で記述したのもそんな気分だったからだ。時代が変わったことを如実に示しているのは、なんといっても音楽産業の変貌とそこでのジャニーズの位置であろう。
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オリコン発表による2016年年間シングルCD売り上げランキングベスト20を見てみよう。
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1位 AKB48 「翼はいらない」
2位 AKB48 「君はメロディー」
3位 AKB48 「LOVE TRIP/しあわせを分けなさい」
4位 AKB48 「ハイテンション」
5位 乃木坂46 「サヨナラの意味」
6位 乃木坂46 「裸足でSummer」
7位 嵐 「I seek」
8位 乃木坂46 「ハルジオンが咲く頃」
9位 嵐 「復活LOVE」
10位 嵐 「Power of the Paradise」
11位 欅坂46 「二人セゾン」
12位 SMAP 「世界に一つだけの花」
13位 欅坂46 「世界には愛しかない」
14位 欅坂46 「サイレントマジョリティー」
15位 SKE48 「チキンLINE」
16位 NMB48 「僕はいない」
17位 HKT48 「最高かよ」
18位 SKE48 「金の愛、銀の愛」
19位 Hey! Say! JUMP「真剣SUNSHINE」
20位 HKT48 「74億分の1の君へ」
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うむ。おわかりいただけるであろう。上位20曲のうち15曲がAKBグループ、残り5曲がジャニーズ(嵐3・SMAP1・Hey! Say! JUMP1)である。握手券つきのまるで食玩みたいなCDばかりが売れているのである。加えて各楽曲タイトルの、見事なまでのやる気のなさである。ゲンナリする。日本の大衆音楽は死んだと嘆きたくさえなる。「翼はいらない」とか「74億分の1の君へ」とか、こちらがバカ負けするくらい青汁臭い。もとい青臭い。
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こうした状況のなかで、さらにジャニーズ事務所は刻々と追い込まれつつある。たとえばこの4月には元KAT‐TUNの田口淳之介(31)がメジャーデビューすることが決まっている。ジャニーズ事務所から契約解除されたのは昨年3月だから1年間の冷却期間を設けたことにはなるけれども、これまでならそれで活動がスムーズに再開できるなどということはあり得なかったのである。
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これには田口淳之介が契約したユニバーサルミュージックジャパンにジャニーズ事務所のタレントがいないことが影響している。ユニバーサルにしてみれば関係のない会社からアレコレいわれる筋合いはないわけで、これだと圧力をかけたくてもかけようがない。名古屋発のBOYS AND MENの所属レコード会社Virgin Musicはユニバーサルの社内レーベルである。赤西仁(32)の所属するワーナーも事情は同じだ。
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元ジャニーズばかりではない。ジャニーズ事務所のにらみがきかなくなったいま、ほかの大手プロダクションもいっせいに攻勢をしかけている。スターダストプロモーションは「超特急」、「DISH//」をデビューさせたし、ワタナベエンターテイメントからは「D-BOYS」、「D☆DATE」がデビューしている。
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さらにさらーに、国内市場が不安定ななか、政治摩擦から中国市場を閉め出されているK-POP勢が改めて日本に照準を合わせはじめている。BIGBANG、2PM、EXO、さらに東方神起も兵役を終え本格復帰を控えているし、ジャニーズにとってはたいへん強力なライバルである。さらにメディア側にとっての選択肢が広がることはそれだけジャニーズのコントロールが効きづらくなることを意味している。早い話、大手のワーナーかユニバーサルを突破口にすれば弱小事務所でもボーイズグループをデビューさせることはできる。
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そんなこんなで音楽市場におけるジャニーズの位置はジリジリと後退しているのである。したがって今後はテレビ番組の争奪に死活をかけることになるのだが、タレントをテレビで活躍させるには音楽制作以上のプロデュース力や営業力が必要だ。視聴率が取れなくなればすぐに切られる。ジャニーズの優位はもう長く続かないであろう。
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ここでSMAPをもちだすのは毎度のことで気が引けるけれども、SMAPというジャニーズ事務所の繁栄とチカラのシンボルを失った意味はたいへんに大きいのである。み〜んな時代はもう変わってしまったと感じているのだ。ジャニーズ事務所は昭和と平成の時代の領袖であったけれども、すぐに次の時代の幕が開く。
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えっと、で、なにをいいたかったかといえば、とりあえず音楽分野ではジャニーズの時代の先が見えてしまった、ということである。知ってた? そう。ジャニーズが日本の大衆文化に与えた影響については、またいつか稿を改めてトライしたい。(了)
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