不肖の息子
一九五四年に生まれた
ゴジラと自衛隊と不肖の息子
姉より四十と七箇月遅く
妹より四十と九箇月早い
三人そろって早生まれなのは
高度経済成長のとば口で
子育てにも効率を考えたから
中流なりの理想があった
敵をつくらず媚を売らず
ただ周到に我が身を律し
一所懸命に働くことで
身内一の出世を手繰り寄せた
黙々と会社と家を往復し
一九六四年にたった一度
不肖の息子と二人で映画を観た
『モスラ対ゴジラ』だった
人に恬淡とし子にも干渉せぬ
高校生になった不肖の息子は
自衛隊を否定しモスラに憧れ
おそろいの早生まれを憎んだ
金は嫌いだと嘯き気ままに暮らし
何度も無心に頭を下げた
できるだけのことはしてやったが
諭す言葉は出てこなかった
今生の別れは二〇一〇年だった
家に残った姉と戻った妹と
六十五年間連れ添った妻は泣き
不肖の息子は淡々としていた
上の空のようでもあった
それから丸三年が過ぎたころ
不肖の息子が一人でやってきた
己の幼さ寂しさに気付いたという
還暦を迎えた不肖の息子である
(了)
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