2015年3月13日金曜日
いもうとはここに:ショートストーリー
たくやくんのおかあさんのおなかに赤ちゃんができました。おかあさんのおなかはどんどんまるくふくらんで、おどろくくらい大きくなりました。このごろのおかあさんは、ふうふういいながら、つき出したおなかをとても大じに、おもそうにしています。
「たくちゃん、おかあさんはあさってびょういんに入いんするの。たくちゃんのいもうとをうむのよ。たくちゃん、おにいちゃんになるの。いい子にしてまっていてね」
夕ごはんのとき、たくちゃんのかたをだいておかあさんがいいました。
「だいじょうぶだよな。もう年中さんなんだから。それに、あしたからはおばあちゃんがたくやといっしょにるすばんをしにきてくれるし」
おとうさんがまっすぐたくやくんの目を見てはげましました。
たくやくんは、おばあちゃんにあえるときいてうれしくなりました。でも、おかあさんが本とうにちゃんとげん気でかえってくるだろうかと考えると、すこししんぱいになってしまいます。
「うん……」
へんじのこえもいつもより小さくなってしまいました。
「きょうはおかあさんとねようか」
たくやくんのようすを見たおかあさんが、やさしいこえでいいました。
天気のよいある日、たくやくんがようちえんからかえると、おかあさんがびょういんからかえってきていました。
「ただいまっ」
よろこんだたくやくんがおもわずだきつくと、おかあさんも「ただいまっ」といってぎゅっとだきしめてくれました。
「さあ、はやく手あらいとうがい。それからきがえをしましょう。たくちゃんにいもうとをしょうかいしてあげるから」
いもうとは赤ちゃんようのベッドの中でピンクいろのうぶぎにくるまって、すやすやとねむっていました。小さなかおの目やはなや口や耳や、そしてまるくにぎった手がまるでおもちゃの人ぎょうのようです。
「かわいい」
たくやくんはおもわずつぶやきました。
「いっぱいミルクをのんで大きくなって、はやくいっしょにあそべるようになるといいわね。たくちゃん、なかよくしてあげてね」
そういってベッドのむこうがわに立ったおかあさんのおなかは、すっかりもとどおりにたいらになっていました。
たまこと名づけられたたくやくんのいもうとは、おかあさんがねがったとおり、どんどんせいちょうしました。あさになってたくやくんが目をさますたび、ようちえんからかえってくるたび、まえよりひとまわりもふたまわりも大きくなっているのです。
ひと月もしないうちに、たまこちゃんはたくやくんより大きくなってしまいました。ベビーベッドではあたまや手足がつかえるので、おかあさんのベッドでねています。そしておかあさんはたまこちゃんのベッドのよこのゆかにねるのです。
「たまちゃんはげん気で、みるみるそだって、えらい子ねえ」
おかあさんはうれしそうです。たまこちゃんもけらけらとわらいます。
「きょうはたまこのためにいいものを手に入れてきたぞ」
おとうさんがかいしゃのかえりにかってきたのは、ウシの赤ちゃんがつかう大きなほにゅうびんでした。赤いちくびはおとうさんのおやゆびより大きいくらいです。
「どうだ。いままでのふつうのほにゅうびんの十二本ぶんも入るんだぞ。これなら、なんどもおかわりこうかんしなくてもだいじょうぶだ」
そうかウシも赤ちゃんのときにはほにゅうびんでのむんだ、とたくやくんはかんしんしました。
「よいしょっと」
ウシようのほにゅうびんは、ミルクをいっぱいに入れるとたくやくんがもてないくらいおもくなります。でもたまこちゃんはそれをりょう手でかかえてぐびぐびのみます。
「よしよし。たまちゃん、そのちょうし」
たまこちゃんのしょくよくおうせい、げん気なようすに、たくやくんもうれしくなってしまうのでした。
「どこにもかわったところは見られません。おじょうちゃんのたまこさんはけんこうそのものですよ。ごしんぱいなく」
たまこちゃんがあまりの早さで大きくなるのを気にしたおばあちゃんがきてもらった大学の先生たちも、たまこちゃんのことをけんこうゆうりょうじだといってほめました。
ウシようのほにゅうびんをつかうようになってから、たまこちゃんはますますぐんぐんそだちました。まだしゃべることもできないのに、おとうさんやおかあさんよりもからだが大きくふとっているのです。
そのぶんうんちもおしっこもたくさんするので、おかあさんはとくべつサイズのおむつをつくって、まい日まい日、あさからよるまでせんたくです。おとうさんも手つだいます。休むひまもありませんが、二人ともにこにこしてしあわせそうです。
たくやくんは、おもにたまこちゃんがなき出したときのあやしがかりです。
「たまちゃんのおかげでこのいえもだんだんせまくなってきちゃったなあ」
たまこちゃんのからだを三人がかりでおゆにぬらしたタオルでふいていたとき、おとうさんがおもいついたようにいいました。
「そうね。もう本とうのウシさんくらいになっているものね」
たまこちゃんの手におされてしりもちをついたおかあさんがいいました。
「どうだい。いなかでくらすっていうのは」
おとうさんがいいました。
「いいわね。たまちゃんのなきごえが大きくてすこしごきんじょめいわくかしらと気をもんでいたところだし」
このしゅんかん、たくやくんのあたまにめいあんがひらめきました。
「ぼくじょうへいけばいいんだよ。ひろいし、ウシさんたちからミルクをもらえるよ」
「そうさ、それをおとうさんもかんがえていたんだ」
さっそく三人のい見はまとまりました。
ぼくじょうでたまこちゃんはますます大きくなりました。子ウシなら十とうも入る小やを一人でせんりょうするほどです。よちよちあるきで立ち上がると、二かいだての高さの天じょうにあたまがつきそうになるくらい、せものびました。
「ひっこししてきてよかったわね」
そんなたまこちゃんを見上げて、おかあさんはまん足そうです。
おとうさんはたまこちゃんのうんちをひりょうにりようしてぼく草をそだて、それをウシにたべさせて、そのウシのおちちをしぼっています。おちちはたまこちゃんのミルクになります。
「これならそんなにお金もかからないし、いつまでもつづけられるぞ。ほうら、たまちゃん、もっともっとどんどん大きくなれ。大きいことはいいことだ」
たまこちゃんはいわれたとおりに大きくなりました。赤ちゃんなのに大きょ人です。よちよち立ち上がると、あたまはくもにかくれて見えません。どすんどすんとあるくと、ウシたちをふみつぶしそうになります。
「こらっ、たまちゃんたら。足もとに気をつけてよ。ウシさん、けがしちゃうよ」
おもわずたくやくんがおこると、たまこちゃんはごろんとよこになってだだをこねはじめました。
「うおーん、うおーん」
森の木がたおされ、いえがつぶれました。ウシたちが右に左ににげまどいます。
「やめろよ。たまちゃん。やめろってば」
たくやくんはたまちゃんにつかまって、ひっしにとめようとしました。しかし、かいりきのたまちゃんにかんたんにふりまわされ、なげすてられてしまいました。
気がつくと、たくやくんはベッドの中でした。となりでおかあさんがすやすやねとむっています。ここはおかあさんのベッドです。ちょっとあまいおかあさんのにおいも、ちゃんとします。もうふの下でおそるおそる手をのばしました。まあるくぱんぱんにふくらんだおかあさんのおなかにさわりました。まだいもうとはおかあさんのおなかの中です。たくやくんはゆめを見ていたのでした。
ほっとしてから、にんげんはちいさいものなんだな、とたくやくんは考えました。そして、かわいいいもうとにはやくあいたいとこころからおもいました。いまのへんてこなゆめのはなしをしてあげるのです。(おわり)
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