2015年3月12日木曜日

何かへの旅


人は滅びる 近々滅びる 推定余命の十倍以上も永生きしている理論物理学者によると「二百年以内」らしい 太陽族の人が国会で開陳していた 
習作三点が百四十一億円で落札された画家は生前「人間は肉である」と断じた 畜肉処理場のカーカスにも紛うその人物像を見よ 画家の名前はベーコンである 
昨年死んだ社会/文化人類学者は「人間の再定義と人権の再構築が必要だ」と論じた 
「まぢすか」は〈スナックあやめ〉で働くさっちんのキラーフレーズである 嘘は本当のふりをするが本当も実はふりをしているだけなのである 
二十一世紀はうっかり嘘だらけである 悪い冗談は悪い本当なのである 願わくば最期まで人の誇りをもち続けたい

競馬好きの牛島君が出世をして外回りから内勤に移った途端ちっとも勝てなくなった テレビのお蔭ではじめて人は人の顔をまじまじと眺められるようになった この二点に依拠して僭越ながら断言する 我々は早晩滅びる
「騎手が進化した」などと口走りはじめたころからみな勘付いているはずである 「絶滅」が怖いから「進化」などと支離滅裂に取って付けているのである 
ごまかしは「食」も同様である 飢えが怖く飢えに後ろめたいのでわざと食い倒れる始末である まるで餓鬼である そのうえ金が幅を利かせるものだからさらに世間が幼稚になっていくのである 「ばぶぅばぶばぶ」と我々は滅ぶのである 

定年退職した春川君は毎日街を散歩する 老後の雪隠通いに備えて足腰を鍛練しているのである 最期まで人の誇りをもち続けるとはこういうことである 効率なんぞという産業の算段を人の生き死にに当ててはならぬ 
散歩のあいだはなぜ雪隠へ行くのかを考えるのがよい 考えて考えて頭が痛くなっても考え抜くのがよい 馬鹿になるほど考え続ければ滅びる前に何かにたどり着くかもしれない

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