影と歩く
集合住宅の前を通りかかる
整然と並んだたくさんの窓が
内側に湛えた薄暗がりを
几帳面に四角く切り取っている
その一つひとつに
喜びや悲しみや怒りや憎しみが
ひっそりと息づいている
同じ集合住宅の人たちは
だいたいみな同じような暮らし向きで
明日の食べものの心配はない
しかし十年後 二十年後にどうなっているのかは
あまり真剣に考えたこともない
そんな似たりよったりの住人たちのあいだにも
憧れや嫉妬や恨みや感謝がある
スーパーマーケットや公園にいる老人たち
みんなそれぞれ さまざまな経験をしながら
今日まで生きてきた
老人たちはあまり自分のことを語らないが
一人ひとり みんな違う人生と宇宙を抱えている
あるときは乱暴に あるときは慈しみながら
歩んできた日々の棘を抱えている
老人の目は集合住宅の窓のようで
覗き込めばきっと
いろいろなものが見えるのだろうけれど
とてもそんな傲慢は私にはない
私はただ身近な人間を
それもさほど幸せにもできず
見つめながら生きている
ときどき老人や集合住宅の窓を見上げたりするのは
きっと 私なりの
祈りのようなものなのだろうと思う (了)
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