2015年5月13日水曜日

影と歩く


集合住宅の前を通りかかる
整然と並んだたくさんの窓が
内側に湛えた薄暗がりを
几帳面に四角く切り取っている
その一つひとつに
喜びや悲しみや怒りや憎しみが
ひっそりと息づいている

同じ集合住宅の人たちは
だいたいみな同じような暮らし向きで
明日の食べものの心配はない
しかし十年後 二十年後にどうなっているのかは
あまり真剣に考えたこともない
そんな似たりよったりの住人たちのあいだにも
憧れや嫉妬や恨みや感謝がある

スーパーマーケットや公園にいる老人たち
みんなそれぞれ さまざまな経験をしながら
今日まで生きてきた
老人たちはあまり自分のことを語らないが
一人ひとり みんな違う人生と宇宙を抱えている
あるときは乱暴に あるときは慈しみながら
歩んできた日々の棘を抱えている

老人の目は集合住宅の窓のようで
覗き込めばきっと
いろいろなものが見えるのだろうけれど
とてもそんな傲慢は私にはない
私はただ身近な人間を
それもさほど幸せにもできず
見つめながら生きている

ときどき老人や集合住宅の窓を見上げたりするのは
きっと 私なりの
祈りのようなものなのだろうと思う  (了)



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