2015年5月27日水曜日

恋ごころについて


恋をすると心を包むガラスが薄くなる
薄いガラスはゆらゆらと揺れ動き
かすかな予感にも震えて響く

いつもは聴こえなかった音
いつもは気づかなかった光
いつもは見えなかった色彩
いつもは感じなかった風

世界は刺激に満ちあふれ
喜びと千々に屈折する予感とで
心は一瞬も休むひまがない

幸福や不安な気持が
信じられないほどの強さで押し寄せ
そして引いていく

昨日まではなんの疑いもなく
そこに確かにあり続けていた町並みや
空や太陽までもが
急に自信なげで頼りなく見える

恋を失った哀しみを
こり世の終わりだと歌った
古い流行歌のほんとうの意味が
突然 目の前に
黒々とした森のように立ち現れる

眠れない夜は永遠に長く
追いかけるべき悩みは果てしなく広い
そして 恋をするときでさえ
人は独りだと知る

恋をすると心を包むガラスが薄くなる
薄いガラスはゆらゆらと揺れ動き
かすかな予感にも震えて響く


いつもは聴こえなかった音
いつもは気づかなかった光
いつもは見えなかった色彩
いつもは感じなかった風

もしこの心が砕けてしまうのなら
その前に たった一瞬でも
薄いガラスに映った
あの日の自分の姿に会いたい  (了)




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