欲望がない、のか、欲望はあるのに自覚できないのか、このままではホトケのなんとか、あるいは解脱者、即身仏と呼ばれる日がもうすぐそこに迫ってくるのではないか、と思うのである。そして恐ろしいことに、そのことになんの焦りも怖さも感じないのである。
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アレを食べたいコレを飲みたい、がない。行きたい場所もない。買いたいものもない。たぶん大富豪や王侯貴族もこんなようなものであろう。しかし欲望の落ち着き加減は同じであっても、スケールはまったく違う。現代の大富豪に較べれば、私などはアラブの砂粒のようなものだ。
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大富豪の欲望がグングン昂じていったん天井に突き当りいまの場所までゆるゆると下りてきたのに対して、私の欲望は奈落の底でジリジリと並行移動し続けていまの地点にたどり着いたのである。
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大富豪というのは、今年1月、貧困問題に取り組むイギリスの国際NGO「オックスファム・インターナショナル」が発表した、資産の合計金額が貧しい36億人分の資産と同額になるという、世界の金持ちトップ62人みたいな人たちのことである。
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62人の資産合計額は約190兆円(1兆7600億ドル)で、平均すると1人約3兆600億円になる。ああ、私はアラブの砂粒どころではなくて、目に見えず風に舞う塵のようなものだ。うむ。解脱が近い。
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欲望がないというのは発展・成長がないということだ。もっと速く、もっと遠く、もっとたくさん、という欲望がない私にとって、たとえば新幹線など無用の長物である以前に理解ができない。あんなもので国威発揚などといっているのでは、新しいオモチャを買ってもらって喜ぶ子どもと変わりがないし。
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SNSだのソーシャルゲームだのにもほとんど関心がない。タダなら使ってやってもいいぜ、くらいのものである。その点ネットはエロがいっぱいなので非常にナイスである。科学技術の発展は戦争とエロに依るという大原則の見事な具体例である。
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ただ、ついに、というか、もう、というか、だいたいのエロは見尽した感じがあるので、最近ではネット全体が目に見えないガラガラ電車のように感じることがある。人間とはまことに勝手なものである。
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これがJRなら、さっそく廃線の論議が出されているところである。回線使用料というバカげたものはあるが、ネットそのものにはあまり金はかからないので、乗客が1人もいなくても世界中を走り回ることができるのである。
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それでも、金に置き換えないと、モノの価値は伝わりにくい。フランシス・ベーコンの絵を見せても「気持ち悪ーい」とかいっていたヤツに、たしかこの連作3点で150億円くらいだったと思う、といったとたんに眼がギラギラ輝きだしたりするのである。
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こんな、私のようなグダグダした人間は、国のほうから見ても無用の長物である。生産性など期待できないし、戦争に行かせればきっと泣いて帰ってくるに決まっている。闘争心ってなーに? である。
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全方位的に、360度すべてにおいて草食男子、あるいは絶食男子である。あ、ときどき性欲はある。性欲だけはある。ほとんどボケ老人である。つい夢うつつに介護のオバちゃんのオッパイを握って手厳しく張り倒されるのが関の山である。食欲や睡眠欲は、いってみればほとんど労なく満たされているので、意識される欲望といえば性欲だけなのである。
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大問題である。たぶん、こんな私のような、すべてに草食ときどき性欲という男子は日本全国に数百万人は存在しているはずである。いわゆるひきこもりの数だけで、数十万人に達するといわれている。
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うん? 2010年に15歳〜39歳を対象に内閣府が行った調査によると、ひきこもりは約23万人、準ひきこもりは約46万人だそうである。準ひきこもり? 準? 。なんだろうヘンだ。準デブ、準ノッポ、準昼飯、準コオロギ…、そんな話があるか。
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ともかく、合計約70万人のひきこもり諸君やひきこもらずの脱欲諸君を叩き起こし、心に熱い血を漲らさせ、労働の歓びを叩き込むのは、ほとんどキリンに懸垂を教え込むようなものである。爆風スランプだっけ?
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でもって、私のようなひきこもらずの脱欲ときどき性欲野郎は、金持ちになるわけがないのである。しかも、たとえば3日も4日もつくりおきのメシを食い続けても平気な私に、貧乏人根性だとかいじけ野郎だとかのそしりはカエルのツラに小便なのである。準カエル。
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いっておくが、資本主義とは金が主役、主人公ということなのである。人間は金にこき使われ、生かされ、殺されるのである。そんなヤツになにをいわれてもちっとも身にこたえないのはあたりまえである。一昨年の暮れに出版されたトマ・ピケティ(45)の『21世紀の資本』も、一生懸命そのことを説いている。
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《資本収益率が産出と所得の成長率を上回るとき、資本主義は自動的に、恣意的で持続不可能な格差を生み出す》(『21世紀の資本』)。金が金を生む効率が、人が働いた稼ぎの伸び率よりもよくなれば、ジャンジャンバリバリ格差を生み出す、ということである。で、そうしてうつつを抜かしているうち、資本主義は破綻するのである。
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そんなことは改めてご注進いただかなくても、実感として、カッコよくいえば先験的にずっとむかしからわかっていたことだ。でもってある日突然、夢から覚めたように、これまでご主人様であったはずの貨幣にはびた一文の価値もないことが理解されるのである。
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そして、いつも、いつまでも貧乏野郎だった私は「だろ?」とかいいながらパニックに陥った人混みに流されて、ついにほんもののホトケになるのである。
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うむ。なぜこんなことを書いたのかといえば、遠藤賢司(69)が癌だというニュースが飛び込んできたからだ。ちょうどこのところ、そういえば遠藤賢司の名曲「カレーライス」に漂うただならぬ雰囲気が、いまの時代そのものではないか、と思っていたところだったのである。それで激しくザワザワしてしまったのである。
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むかしはテレテレしたフォークソングにしか聴こえなかった「カレーライス」が、いまやなんど聴き直しても、やはり不吉で異様な、ただならぬ唄なのである。この唄について、直接アレコレ書こうと思えば、それなりになんとか書けないこともないのだろうけれども、私にこの空気感を定着させる筆力はない。
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もし万一、エンケンになにかあったら、きっと時代は途方もない様相を見せる。ような気がする。でもなあ、小林麻央(33)の乳癌公表に続いてとは、なあ。らしすぎるぞエンケン。がんばれエンケン!! (了)
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