しばらくこのニュースのトリコであった。笑い、泣き、そしてまた笑い、連想に耽ってまたまたオマケのような一日を費やしてしまったのである。
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【山田花子 子供を「東大に」の英才教育明かす】
お笑いタレント・山田花子(42)が18日、日本テレビ系で放送された「グサっとアカデミア 林修VS悩める美女!」にVTRで出演。長男(4)、次男(1)を「東大に入れたい」と野望を抱き、英才教育していることを明かした。
2010年にトランペット講師の福島正則さんと結婚。1年前から子育てのため、友人や親族のいる大阪に移住した花子。4歳の長男には「バイオリン、英語、フランス語」など5つの習い事をさせていることを明かし、「やっぱり東大に入れたいですね。あそこが最終目標やから」と野望を告白した。
子供を東大に入れたい理由については「自分がなりたいやつ(職業)を、色んな選択肢をあげたい。東大やったら政治家にもお医者さんにもなれる」と説明していた。
※『デイリースポーツ』 2017年5月18日配信
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最初に、やはり山田花子と東大という組み合わせで笑ってしまったことを告白する。決してバカにしているわけではないけれども、山田花子が東大を頂点とする学齢社会の価値感、あるいはそれへの憧れをもって生きていたという発見が意外でつい笑ってしまったのである。懐かしの「東大一直線」みたいなコミックの世界のようでもある。
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で、次にこれが花子姐さんの女としての上がりか、と思ったら涙が出た。子どもを東大に入れることが彼女の勲章すなわち存在証明になるのであろう。いくらボケをかまして笑いをとっても、生活力にモノをいわせてラッパ吹きを夫にしても女・山田花子はたぶん満足できなかったのである。
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おお、そして高校卒業後JWP女子プロレスの練習生となったものの受け身がまったく取れず、練習中に頭蓋骨骨折の重傷を負って断念した(Wikipedia)あの日のことを思い出すではないか。器量にも頭にも恵まれず生きた母・山田花子の血と汗と涙の半生である(by武田鉄矢)。涙が出る。
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おっと、いま確認したところ最近になって山田花子、受け身ができずそのたびに失禁してしまったのがプロレス断念の理由だと語っているではないか(「痛快! 明石家電視台」MBS・2016年5月3日放送)。“受け身”と“失禁”のあいだに「ずっと頭を打ってて。マヒしてきて」という実に微妙な文言が挟まっているのだけれども、やはりまとめれば失禁で断念、である。
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ほんとうは頭蓋骨骨折で断念したのか失禁で断念したのか? うむ。ふつうならばそれは考えるまでもなく頭蓋骨骨折のはずなのだけれども、ではそれをなぜ後になって失禁にシフトさせたのか? 頭蓋骨骨折で通せばよかったではないか。
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『痛快! 明石家電視台』での発言は1年前。いま虎視眈々と東大を狙っているはずの長男はまだ3歳であった。しかし思うにこのころから花子姐さんの人間観に「頭」すなわち頭脳、知能というものが存在するようになったのである。
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母親に頭蓋骨骨折の過去があっても子どもの知能には関係がないけれども、母親の私の頭が割れていては幼稚園だの小学校だのの入学試験にまずいのではないか、と考えるのが花子姐さんである。
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退屈な私のヒマ潰しに付き合わせてしまい、たいへん申しわけない。
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そして山田花子は東大について「あそこが最終目標やから」といい、「自分がなりたいやつ(職業)を、色んな選択肢をあげたい。東大やったら政治家にもお医者さんにもなれる」という。
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「東大やったら政治家にもお医者さんにもなれる」について、いやいや大学には学部学科というものがあって、と正してもそれは野暮というものである。それはそのときになって考えればいい。
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そんなことよりも、続けて「あそこが最終目標やから」という言葉を置いてみよ。「東大やったら政治家にもお医者さんにもなれる。あそこが最終目標やから」。ほら、山里深く、夕陽に赤く照らされた農家の軒先でうずくまるようにして働く花子姐さんの姿が浮かんでくるではないか。まるで『まんが日本昔ばなし』(TBS)である。
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そうなのである。なにか学歴主義が立ち上がって間もないころの明治の感覚なのである。田舎を出て刻苦勉励、立身出世はお国のため、そしていつか錦の衣を着て故郷に帰らむ、の世界である。そして富国強兵、脱亜入欧。
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勉学のため都に出る息子を見送る母親は、実際に息子がどんな勉強をするのかを想像できなかったし、その勉強が息子の人生を具体的にどのように助けてくれるのかももちろんよくわからなかったけれども、しっかり学問を身につけさえすれば、末は博士か大臣も夢ではないと思えたのである。「東大やったら政治家にもお医者さんにもなれる」。そうして眩しそうな眼をして息子を見るのである。
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笑ってはいけない。ほんの2世代前、3世代前まではこんな母親たちがあたりまえだったのである。たとえば娘、息子の高校の数学の教科書を覗いてその内容が理解できる母親、父親のほうが少なかったのではないか。
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そうそう、そう考えればいまの母親たちがやっていることも花子姐さんとあまり変りはないように思える。親は踏み台、カタパルトであって、あなたも頑張ってパパやママの後についてきてね、というのはまだごくごく一部である。むしろ、パパやママみたいになっちゃうわよと脅すほうが多い。
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学歴主義というのはいってみれば社会的ダーウィニズムである。人生は試験であり闘争である。強者であるほど進化の道筋は末広がりに拡がり増えていく。山田花子の「東大やったら政治家にもお医者さんにもなれる」は、まさにそのことと重なり合っている。
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こういう山田花子みたいな母親が日本をつくってきたのである。山田花子、これからは郷愁の母親としてオジジ人気が出るかもしれない。まあ、実際の子どものほうは堪まったものではないけれども。(了)
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