ワタクシは誰かと一緒に楽しくテレビを観るということができません。のべつまくなしチャンネルを替えるからです。たまさかそんなワタクシを目撃した知り合いなどは呆れた顔つきでテレビではなくワタクシを見つめます。
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自分ではそれほどせっかちなほうではないと思っているのですが、やはりつまらないとすぐに替えたくなりますし、他のチャンネルではどんなことをしているのかとつねに気にもなります。それでいったん握ったリモコンは決して離さず、仕事中ならキーボードの脇にピシッと置いて、始終テレビに向って信号を送り続けるわけです。
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あ、やはりせっかちなのかもしれません。というのは、音楽、好きなロックですら1曲を丸々最初から最後まで聞き通すことができないのにいま気付いたからです。必ず途中で切り上げてしまいます。退屈になるので。
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電子楽器のなかにはサンプリングした音を音程はそのままで速度を変えて再生する機能がついているものがあります。しかし、サンプリング可能な時間はだいたい1分かそこいらで、5分、10分というものはまだないようです。
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また、実際より遅らせて再生するほうのニーズが高いらしく操作性などもいろいろ考えられていますが、速めて再生するほうはあまり重視されていないようです。ですけれども使えるものが出てくればたぶん買うでしょう。
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ワタクシのように頻繁にチャンネルを変えながらテレビを観ている方、それは単身者でしょうけれど、案外多いのではないか、とワタクシは思います。逆に、たとえば1時間ドラマを最初から最初まできちんと観るという方はどのくらいいらっしゃるのでしょう?
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ワタクシのようにまったく落ち着かないテレビ視聴のしかたをする人間が増えれば、いったい視聴率とはなんだ、というお話にもなります。視聴率10%などといっても調査世帯の10%がその番組の全体を観た、ということではなくて、視聴者があっちにウロウロこっちにフラフラしているあいだのあるいくつかの瞬間の数値の平均値でしかないのであれば、番組への評価をそこから導くことはできないでしょう。
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さらにいえば、たとえばリモコンのチャンネルボタンの真ん中だからつい「5」チャンネルを通りかかることが多い、ということもあり得るかもしれません。そもそも視聴率はいま問題の「統計」ですからあまり真に受けられないような気もします。
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ワタクシの場合、絶対にどうしても観る、という内容がないかわりに、これは絶対に観ない、出てきたら瞬時にチャンネルを替えるというものがいくつかあります。ひとつは子どもに対する虐待のニュース、もうひとつは有名人の病気のニュースです。ですから最近はワイドショーやニュースの時間帯はチャンネルの切り替えが忙しくて困ります。
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起きてかから寝るまでテレビと生活をともにしていると、これらのニュースが何度も何度も繰り返されて、いくら脳天気なワタクシでも気が滅入ってしまいます。ニュース自体が酷いことはもちろんいうまでもありませんけれども、その取り上げ方のトーンがみな白々しくわざとらしくてたまりません。
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いったい「決してあってはならないこと」だとか「こころからお祈りしたいと思います」とかいう言葉にどれほどの実感がこもっているのでしょうか。こういう言葉の貧しさが事件や出来事の悲惨さ辛さをどこか遠くに押しやってしまっていることにそろそろ気付いてもいいころではないかと思いますけれどもどうなんでしょう。イライラは募るばかり。
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そうなのです。それならばテレビを観なければいいのです。ポチっと消してしまえばいい。しかしブウブウブーブーブンブン文句をいいながらも観続けるのは、すでにテレビがワタクシの世界観の大きな部分を担う重要な「覗き窓」の地位を確立してしまっているからです。
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ですから仕事をしていても食事をしていてさえも、ワタクシの世界観は実際と乖離していないか、と気が気でなく、つい画面を覗いてしまうのです。しかしそこにあるのはもちろん現実そのものではなくて恣意的に切り取られた現実に過ぎません。そこから「真実の現実」に近づこうと裏を読み、下から見上げ、とためつすがめつすするのです。
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人工知能がさらに発達したとしても、そしてワタクシが孤独であったとしても、話し相手のロボットは不要です。テレビがあればそれで十分。安上がりこのうえなし。いや、たぶん3分に1回なら3分に1回、ワタクシの嗜好にあわせて自動的にチャンネルを替えてくれる「チャンネルチェンジAIこれでしあわせクン」付きテレビが現れたらさっそく買うでしょうね。もう、人としてほぼギリです。(了)
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