2016年10月1日土曜日

鉄道自殺が起こると、こんなふうにみんな必死。笑えないよー



知り合いが待ち合わせの場所に来るなり、いましがた地下鉄駅ホームで飛び込み自殺に出くわし、タクシーを使うべく引き上げるとき、下半身を車両の頭に挟まれ、仰向けに倒れている女本人と偶然目が合った、と話したことがあった。なんだかふつうの顔をして元気そうだった、と。



しかしその日の夕方のニュースでは死亡事故として報道されていたのである。知り合いが目を合わせたその女は、そのときすでに亡くなっていたか、あるいは直後に亡くなったわけである。さっそく知り合いに電話して教えてやったのである。あまり大きな声ではいえないニュースがあるんだけど……、われながらイヤなヤツである。



その後、ある地方都市に出かけたときにヒマだったので、同じくヒマそうにしている地下鉄構内の事務所の職員にこんな話を聞いたことがあるのである。
「人身事故でもあるとたいへんでしょう?」
「そうなんですよねえ。いろいろ混乱しますからねえ。あの……、いいにくいですけど死んでくれるとわりと早く片付くんですけどね、生きていると現場検証やらなくちゃいけないので時間がかかるんですよ」



この話を私はつい最近まで鵜呑みにして固く信じ込んでいたのである。ご承知の方も多いと思うけれども、実際は逆なのである。当事者の話がすべて事実であると思い込んではいけないという見本である。



それにしてもなぜ地下鉄職員はわざわざそんな反対の話をしたのであろう? とこれまたいつかのヒマな電車待ちの時間に考えたのである。まあ、だいたい、いつでもどこでもヒマではある。



あの地下鉄職員は、たぶんなんの企みもなくありのままを話したのであろう。ウソをつかなければならない理由もない。で、考えられるのは、その地方都市の地下鉄はすべて各駅停車であり、また特殊なゴム製のタイヤを履いていたからかもしれない、ということである。つまり、ホームへの車両の進入速度は停車寸前であるからいつも必ずきわめて遅く、また太いゴムタイヤのダブル履きなので、身体が巻き込まれて轢断される可能性もない。



であるから、死亡したとしても身体がバラバラになったり撥ね散らかされたりすることはないのである。一般の鉄道自殺の場合のような回収、清掃、洗浄の作業が省かれる。で、電車と人との接触事故の場合は80%以上が飛び込みによるものなので、現場検証もサックリ、なのではないか。



接触事故の当事者が生きていればあとでアレコレ面倒が起こるかもしれないので、現場検証は綿密にやる。しかし死んだ場合は、まあ、飛び込みだろう、と。接触事故は8割がた飛び込みなのである。飛び込みにしておこう。死人に口なしだし。ああ、やっぱりイヤなヤツである。



そんなこともあって、人身事故が起きたら具体的にどういう事態が発生するのか、なんとなーく気になり続けていたのである。そこに出てきたのが『Jタウンネット』(2016年9月23日配信)の、《人身事故が起こると、なぜ電車は遅れるのか...しなの鉄道ツイッター(非公式)が語る「運転再開まで」に反響》という記事である。実際に鉄道会社で働く方からの報告がベースの記事である。すべての鉄道にまったく同様にあてはまるわけではないとは思うけれども、そのなかから鉄道職員の具体的な動きを箇条書きにしてみる。



◆運転士が走行中、接車(なにものかと車両の接触)を確認!!
(1)非常ブレーキをかけ、防護無線を発砲する
(2)防護無線を受信した近隣走行中のすべての列車が停車
(3)当該車両の運転士は停車した後「指令」へ連絡
(4)「指令」は当該区間の列車抑止を手配し、防護無線の復位を指示
(5)抑止手配が完了後、運転士は指示に従って車外点検を行う
(6)人と衝突したことがわかり次第、「指令」に救急と警察への手配を依頼
(7)車内の乗客の、非常ブレーキ使用に際しての被害を確認
(8)「指令」は人身事故発生にともなって技術センター社員に出動を要請
   ※技術センター社員の携行品:腕章、状況調査用紙、水、じょうろ、医療用ゴム手袋、火バサミ、業務用消臭剤 など
(9)消防到着時、生存の場合はただちに救急搬送
(10)すでに死亡、あるいは救出作業中に死亡が確認された場合は、消防は引き上げ、その後警察によって搬送
(11)救出作業とその次に行われる警察による現場検証中は、鉄道会社側は手出し不可
(12)現場検証終了後、警察より運転再開の許可が下りる
(13)運転士が乗務に戻る→退勤後事情聴取
(14)現場の清掃、消臭剤の散布、周辺設備への被害確認、なりっ放しの踏切などへの対応



これらのなかで必要な時間がとくに読みづらいのが現場検証と清掃、消臭剤の散布といった復旧作業らしい。「しなの鉄道ツイッター(非公式)」の文章には「終了時間が読めません」「時間が読めません」「非常に時間がかかります」という文言が頻発する。事故の性質そのもののほか、発生が昼間か夜間か、また清掃と消臭剤散布が必要な範囲はどの程度かなどで、必要時間は大きく変わってくるという。



で、そうこうしているうちにまた別の情報も入ってきたのである。『週刊女性PRIME』(2016年9月30日配信)の《元鉄道員が告白、人身事故の凄惨な現場と鼻に残るアノ臭い「どうせなら別の場所で」》という記事である。事故に直面した現場職員たちの思いである。



《(人身事故発生の)一斉放送が流れると、鉄道の各現場は戦場と化す。乗客にも多大な迷惑がかかるが、鉄道マンたちも大変な状況になるのだ。ラッシュ時であれば、なおさらである。

駅では、続々と人が集まるが、乗客を運ぶ電車が来ない。乗務中の運転士や車掌は、満員電車に耐える乗客とともに、車内に閉じ込められる。苛立ちを募らせる乗客の中、鉄道マンたちは恐怖すら感じるのだ。

時間に厳密である鉄道は、それが乱れると大混乱になる。乗務員の勤務や車両の検査予定も狂うため、放っておくと、延々と乗務を続ける乗務員が出るし、必要な検査ができなくなる車両も出る》



そう。9月21日、乗客に理不尽なクレームを突きつけられた28歳の車掌が高架から飛び降りて重症を負った事件が、この文章の背景にはある。大阪の近鉄・東花園駅で人身事故によるダイヤの遅れから起きたトラブルであった。まだ若い車掌が「もうこんな仕事やってられるか!!」と叫んで帽子と上着を脱ぎ捨ててジャンプしたと聞けば、いくらイヤなヤツでも身につまされる。



飛び降りた車掌の「寛大な処遇と心のケア」を望む近鉄社長宛の「嘆願書」には、約5万2000件(2016年9月28日午前6時現在)を超えるネット署名が集まっているらしい。それにひきかえ、このニュースを最初に聞いたとき、すぐにダチョウ倶楽部の上島竜兵(55)を思い出したこの私はほんとうにイヤなヤツである。たわけ者である。



事故が起これば、もちろん運転士も辛い。『週刊女性PRIME』は次のように書いている。



《鉄道は、ブレーキをかけても急には止まれない。様子のおかしい人がホームにいても、嫌な予感がしても、運転士は電車を止められないのだ。自殺者が電車進入の直前に飛び込むと、頭が前面ガラスに激突し、運転士の眼前で凄惨な死を遂げる。運転士が受けるショックは計り知れない》



さらに、とうぜん後始末に追われる職員もいる。



《自殺の状況により、遺体の損壊も大きく変わる。いずれも悲惨だが、体が車体に弾き飛ばされれば不幸中の幸いで、車両の下に入り込み、台車に巻き込まれ、轢断されてバラバラになれば悲惨である。運転再開は遅れるし、その体を拾う鉄道マンは哀れである。
〈略〉
人身事故の車両は、回送で検修現場に入り、異常がないか検査を受ける。このとき、車両が汚れていれば清掃も行う。
〈略〉
凄惨な事故の場合、車両の床下機器が血に染まったり、肉片が残っていたりする。それに目を背けず、壊れている機器がないかを確認し、汚れているところを洗い流すのが仕事だ。

人間の肉片を見てしまうと、しばらくの間、料理で挽肉を使ったり、食べたりするのが嫌になる。それでも、時間の経過とともに平気になるのだが、意外に長引くのが、鼻に残る“臭い”である。

損壊した遺体は、独特な強い臭いを放つ。その臭いを鼻が覚えてしまい、テレビや映画で人が殺されるシーンを見ると、鼻が臭いを思い出してしまうのだ》



うむ。なんともいいようがない。たいへんな作業に従事している方々に、ただただ頭が下がる。自らが飛び込むに到るまでにはそれなりの経緯があるのであろうけれども、飛び込まれた側の人間は本当にいい迷惑である。「どうせなら別の場所で」といいたくなる気持ちはわかる。



こうなると次には、飛び込んで首尾よく目的を果たした側の人間はいったいどんなことを考えるのであろう? と思うけれども、もちろん死んだ人間の話など聞けるわけがない。では遺族にはどんなことが起こるのであろう? よくいわれるのが損害賠償を請求される、というお話である。これは事実である。



賠償請求の対象は、振替乗車票の清算代金や駅係員の人件費、電車が破損した場合の修理費などである。金額は、たとえば朝夕のラッシュ時に事故を起こせば影響を受ける人の数が多いので数億円に達することもあるらしいのである。しかし実際には支払いが可能な範囲での和解、示談に至るケースが多いらしいのである。ネット上にある体験者の話を拾えばそんなことである。金額については心もとない情報で申しわけなす。しかし繰り返しになるけれども、損害賠償を請求されるというのは事実である。



鉄道への飛び込み自殺がどんな事態を招くのか、これでだいたいイメージできるようになった。もちろんこのほかに足止めを食った乗客1人ひとりになにがしかの影響が出るのである。仕事のアポイントに遅れてせっかくのチャンスを逃してしまうかもしれないし、親の死に目に会えなくなるかもしれない。運転士をはじめ職員には精神的なダメージが長く尾を引く場合もあるであろう。遺族はもちろんである。些末なことのようだけれども葬式を出すのもたいへんである。損害賠償請求もされる。



もしも万一これから飛び込みに遭遇したときには、そんなこんなを考えて気持ちを落ち着かせようではないか。もしも二万が一、三万が一、どうしても死にたくなったら、誰も、少しも巻き込まない方法で、ひとり粛々と死んでいこうではないか。それが身の始末というものである。部屋、持ち物の片付け、清掃、並びに遺された家族はじめ親族、友人、同僚などに心の負担が生じないような配慮も忘れずに。



そういえば、借金を苦にして薬物自殺を図り未遂に終わった男が、目を覚まして最初になにを思ったかというと、なんと「これから闘いだ!」だったという話を聞いたことがある。巻き添えがいないから笑えるけれども、ソイツもかなりなたわけ者ではある。闘うなら最初から闘え。(了)


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