クリス・ハート(32)という歌手をご存じであろうか? アメリカ生まれで日本在住、日本語でJ-POPを歌う。情感たっぷりの、ベタベタと湿度感の高いソフトバラードが得意らしい。私は苦手である。ともあれ、小太りな黒人がそんな日本のうたを歌うものめずらしさが手伝って注目を集め、早くもいまや中堅どころの感じである。
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クリス・ハートに似た仲間に、演歌界のジェロ(35)がいる。“似た仲間”、植物を分類しているようで申しわけない。言葉にトゲがあるのう。そういえばむかしはインド人演歌歌手のチャダ(64)という人もいた。いまは貿易商らしい。みなさん歌はたいへんにお上手である。
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欧米コンプレックスが強い日本の、その芸能界には、E・H・エリック(享年71)やらロイ・ジェームス(享年53)やらイーデス・ハンソン(77)あたりを嚆矢とする「外人なのに日本が得意」な系譜が半世紀あまりも続いている。ロイ・ジェームスは東京下谷の生まれだけれども。
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そういえば、ケント・ギルバート(64)の起死回生のキャラ変、やたら右翼的な発言も、紅毛碧眼のアメリカ人がいうから人気があるのである。バブル経済の時代には、ただバーのカウンターに座っているだけでギャラがもらえる「外人」という職業もあった。であるから、この「外人なのに日本が得意」な系譜は、きっとこれからも絶えることなく連綿と続くのである。
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しかも最近ではそんな「外人なのに日本が得意」だけではまだもの足りないらしく、『世界が驚いたニッポン! スゴ~イデスネ!! 視察団』(テレビ朝日)や『所さんのニッポンの出番』(TBS)などの日本礼賛番組まである。自画自賛である。誰も褒めてくれないから。
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しかしながら、日本人の我々が聴くと、彼らクリス・ハートやジェロの歌は、やはり外国人が歌う日本の歌なのである。おやおやめずらしい、とってもお上手ねー、外人さんなのに、なのである。であるから、たとえば、クリス・ハートと平井堅(44)を正面から比較して論じようとする者はいないであろう。
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立場を逆にしてみよう。平井堅に英語圏のうたを、アメリカで歌わせるのである。前座は渡辺直美(28)ビヨンセで。それから、平井堅もかなり擬態がすすんでいるので、日本人であるということはしっかりアナウンスしておこう。するとやっぱり、おやおやめずらしい、とってもお上手ねー、アジアさんなのに、という反応が返ってくると思うのである。
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お上手ねー、ならば上出来である。J-POPというジャンル自体がもともと欧米の物真似、剽窃でできているので、ジャニーズ系などはたぶん物笑いの種でしかないのである。EXILEも。いま欧米でもボーイズグループがいくつもホイホイ出てきているけれども、みんなパフォーマンスははるかにうえをいく。ホイホイはゴキブリか。トゲがある。
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ああ、そういえば日本人のインタビュアーがローリング・ストーンズのキース・リチャーズに向かって「『ギミ・シェルター』のイントロのギターのチューニングが少しずれてませんか?」みたいなことを身のほど知らずにも口走ったときに「日本人にはわからねーよ」と切り捨てられたという話がある。思わずチョンマゲが伸びそうなひとことである。日本人として生きるということはそういうことである。得意もあれば不得意もある。まずはそれを認めなければはじまらない。
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いくら欧米に憧れ、コンプレックスを抱き続けても、いたしかたがないのである。向うは本家本元、元祖なのである。たかだか半世紀の付け焼き刃でかなうわけがないのである。このブログでたびたびふれているけれども、桑田圭祐が海外進出ということをいいださないのは、ここのところをよく承知しているからだ。一笑に付されるならまだまし。サル呼ばわりはキツい。
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で、クリス・ハートである。小太りな黒人が日本のうたを歌うものめずらしさにも、申しわけないいけれども最近、すっかり馴れてきてしまったのである。クリス・ハートが日本語でJ-POPを歌っても、それ自体はもうめずらしくもおもしろくも何ともないのである。あたりまえの光景。マンネリ。
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観ているこちら側が自動的にクリス・ハートという存在を洋→和に翻訳してしまっている感じなのである。しかし歌にはどうしても“黒人が歌う”がつく。クリスピンチ!! どうすればいいのか? 歌のチカラを信じて? 甘い!! 甘〜い!! お人好しなだけじゃメシは食えん!!!
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ま、あれである。単純に考えれば、日本への同化路線をさらに推し進めるという方法がまずひとつある。各地の方言で歌うとか、である。ご当地ソングは演歌の常套手段、定番だけれども、関西圏以外でのご当地J-POPならまだ未開拓である。第1弾は熊本弁、それから東北弁、北海道弁であろう。あざとい。
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日本古語で歌うというのもいいかもしれない。たもれ、おじゃる、いとおかし。クレージー・キャッツの谷啓が歌った『愛してタムレ』がお手本である。YouTubeにも上がっているので、ぜひみなさんもご試聴いただきたい。クリス・ハートにピッタシである。しつこいようであるけれども、ぜひご一聴をオススメしたい。
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いやもっとマジメに考えよう。もうめずらしくない、といわせないためには、日本にすっかり馴染んでしまったクリス・ハートだけれども、実はアメリカ生まれの黒人なのだった、という事実をときどきビシッと叩き込まなければならないのである。ヒップホップ、ラップをやるとか。斜めになって踊るとか。
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おお、クリス・ハート、アメリカ時代にはビジュアル系のメタルバンドをやっていたことがあるらしいではないか。あまり黒人ぽくはないけれども、それでもいいではないか。デスボイスで。そんな怪しい黒人がJ-POPソフトバラード!! 新鮮である。
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日本人が黒人や白人にはなれないように、クリス・ハートも日本人にはなれない。どんなに日本やJ-POPが好きだといっても、どこまでいってもそれは黒人が歌うJ-POPである。その先、延々と「黒人が歌うJ-POP」を歌った先にきっと別の新しい何かが生まれるのであろう。そのためには、ときどき私は黒人である、と叩きつけ、さらにその前に黒人とはなんだろう? と自問しなければならないのである。
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日本人の場合? 日本人とはなんだろう? と考えてもあまり芳しいことにはならないような気がする。それでもどうしても、とおっしゃるのであればケント・ギルバートに任せておけばよい。(了)
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