上流階級の女と粗野な男、メロドラマのひとつの定石である。「流されて」とか「スキャンダル」とか。単純なメロドラマではないが「欲望という名の電車」もそのパターンである。上流階級の常識や価値観を外れた男をはじめは嫌悪し軽蔑するものの、やがてその強さや正義感に魅かれて……、ってな具合である。
*
*
そこで千秋の元夫、遠藤章造である。申し訳ないけれども、粗野ではあるが強くはない。遠藤自身は、離婚に到った経緯について「元嫁の実家の食事があわなくて」という話をしていた。同じ、いわゆる逆タマ男でもう一人記憶にあるイラストレーター黒田征太郎も「いちいち少しずつ料理が運ばれてくるのが我慢できなかった」と離婚理由を語っていた。
*
つまり、おそらくこの2人とも自分のマナーというかアティテュードを押し通す強さを持ちあわせていなかったのである。そうすると、嫁にしてみれば夫のしょせんは付け焼き刃の上流風の振る舞いは不快しごくだったはずで、食事をあいだに挟んでの元夫婦のいい分は等分ではあろう。
*
*
しかし、いわせていただければ、遠藤章造にしろ黒田征太郎にしろ、嫁側のマナーに乗っかった時点で敗北だったのである。せっかく嫁が惚れてくれた粗野な自分を取り繕ってしまったのである。いつもの通り、かどうかは知らぬが「サッポロ一番」に白飯ぶち込んでズルズルすすってやれば嫁はついてきたはずである。
*
上流階級の女、千秋。金持ちらしい無頓着さ鷹揚さはあいかわらずだが、加えて最近はどんどん引き締まった感がなくなってしまっている。千秋の問題は人生に手応えがないことだ。だからずうっと自分の世界を脅かすような刺激的な存在を求めてきた。しかし道場破りを期待した遠藤章造も案外な凡人である。なので離婚である。
*
*
千秋は見かけよりもずっと頭がいい。タレント、歌手、デザイナー……、自分のやりたいことはだいたいやってきたのではないか。もしムリ目でも最後は親の力があるから万事窮すとはならない。人生、世の中、どこまでもヌルくて手応えがないのである。だから生の実感を与えてくれる存在、シャキっと目を覚まさせてくれるとんでもない相手を待ち望むのである。
*
粗野ではあるが強く、正義漢に満ちた男である。具体的にいえば、それはたとえば大地震が起きたときに建設関連株を買いに走り回るようなセコい男ではなく、なにができるだろうと考え込む頭でっかちな男でもなく、たった一人ででも黙って現場に突っ込んでいく、直情的で無鉄砲な男である。
*
*
そんな男がいるのだろうか? いるのである。江頭2:50である。東日本で大震災が起き、巨大津波が襲い、福島の原発が弾けたあのとき、一人トラックを転がして北へ向かったあの男である。「笑っていいとも!」の本番中に橋田壽賀子の唇を奪ったあの男である。
*
千秋と江頭2:50、別名ウンコマン、お似合いではないか。ぜひめでたく結ばれてほしい。そして披露宴の二次会では、トルコで叩き殺されそうになったあの「ケツでんでん太鼓」の勇姿を、両家ご一統様の前でぜひ見せてほしいものである。
*
話は変わるが、ラサール石井がふざけて口紅を塗ると和泉節子になる。その顔でモラハラされたら、どうする? (了)





0 件のコメント:
コメントを投稿