世の中にはつまらないものがたくさんある。エラそうではなはだ恐縮であるけれども、いわゆるアートっつーんですか、お芸術なんかもう半世紀くらい停滞したままに見える。ほとんどみなさん“アーチスト”の称号を浜崎あゆみだとかMr.Childrenなんかに奪われてもそりゃしかたないよねえ、な方々ばかりである、と私は思う。
*
日常に拮抗しうる新たな、オルタナティブな世界観を示すというのが芸術のひとつの大切な役割だと思うのだけれども、それができているものが、っつーか少なくともそこに手が届くほどのパワーを秘めた作品がどれほどあるのか? ないでしょ。いまのお芸術は日ごろの疲れをほぐすマッサージ機か投資の対象かばかりで、それらは結局、見た目の違う複製品ばかりだ。
*
でもって、そうそう、東京国立市に首を括り続けて20年の首吊りおじいちゃんパフォーマーがいるというので調べてみたら、毎日5回は首を吊るということで、そりゃもう日常そのものであった。そしてよく見ると首を吊っているのではなくてアゴを吊っているのであった。アンコウの吊るし切りみたいなものである。
*
首吊りおじいちゃんは主に自宅の庭先で首を吊る。月に数回、ひとり1000円で観客を入れる。ムリなことは重々承知しているけれども、しかしこれは街頭でやるべきパフォーマンスであろう。いまは自殺抑止のためとかで自殺現場の写真や遺書すら報道されにくくなっているので、いささかなりとやる意味はある。
*
日常からキレイさっぱり「死」の影が拭い去られている状況に、先頭を切って異議を申し立てなければいけないのが、人間を考えるアートでありお芸術だと私は思う。たとえば死を可視化するなどといっても宗教はとてもアテにはならないし。
*
ちなみにこのおじいちゃんは「山田孝之のカンヌ映画祭」(テレビ東京)に芦田愛菜(13)の父親役で出演していた。インタビューでは「彼女は意欲がありますし、大した女優さんになるでしょうね。」であった。テレビのない暮らしだそうであるけれども、よくおわかりになっていらっしゃる。それからおじいちゃんには「首くくり栲象(たくぞう)の庭」という記録映画もある。
*
そんなようなわけでおじいちゃんパフォーマーはこれからも細く長く首を括り続ける毎日を送られるようなのである。しかしつい最近、ついにトドメを刺されてしまった芸術家がいる。グラフィティアーティストのバンクシーである。
*
*
*
◆『TOCANA』2017年12月13日配信
【〈速報〉バンクシーの正体、ついに判明!! 描き終えたばかりの姿がバッチリ激写される!】
《 ストリートアートの生ける伝説、世界最高の覆面グラフィティ・アーティスト、あのバンクシー(Banksy)の正体がついに判明したという驚きの一報が届けられた。なんと、グラフィティを描き終わった直後のバンクシーの姿がバッチリ写真に収められてしまったというのだ! 現在、(日本を除く)世界各国のメディアで驚きを持って報じられている問題の写真をご覧いただこうではないか。
石造りの建物の入口に立つ一人の男。深めにハットを被り、右手にはスプレー、左手にはステンシル(型紙)らしきプレート、周囲をしきりに気にする様子は、まさにライター(グラフィティを描く人間)そのものといった風情だ。そして、男の背後にある扉に描かれたグラフィティに注目してほしい。「Peace on Earth Terms and conditions apply(地球に平和を 規約と条件付)」――これは現在、バンクシーがオフィシャルサイトのトップページに配置している(国際情勢を鋭く皮肉った)最新作そのものではないか!
写真の場所は、パレスチナのヨルダン川西岸地区、ベツレヘムにあるカトリック礼拝堂「ミルク・グロット」周辺。撮影者は、たまたま現地を訪れていたイギリス人観光客、ジェイソン・ステリオスさん(24)だ。もっとも、彼自身は当初「名も無きグラフィティ野郎の姿を撮影した」程度にしか思っていなかったようだが、一週間後にたまたまバンクシーのオフィシャルサイトを閲覧してびっくり仰天、最新作を描き終えたばかりのバンクシーの姿を偶然撮影していたことがわかったというわけだ。
バンクシーの正体については、これまでさまざまな憶測が飛び交ってきた経緯がある。中でも最有力視されていたのは、イギリスの人気音楽ユニット「マッシヴ・アタック」の中心人物、ロバート・デル・ナジャ(通称:3D)。彼が世界各地をツアーで周ると、それを追いかけるようにバンクシーのグラフィティが出現することが判明しているほか、“ドラムンベースの帝王”と呼ばれる名DJのゴールディーが、ポッドキャスト番組の収録でうっかり“ロバート”の名を漏らしたこともあった。しかし、当の3D本人はバンクシー説を完全否定。結局真相は闇の中……だったところに登場した今回の写真。男の顔の輪郭や口元の特徴など、見れば見るほど3Dその人としか思えない。
やはりバンクシーの正体は3Dだったのか!? これほど決定的な証拠が押さえられてしまった以上、もはや3Dも言い逃れはできないかもしれないが、今後彼自身の口から真実が語られることはあるのか? 事態の成り行きに注目だ。》
*
*
*
マッシヴ・アタックのバンクシーがロバート・デル・ナジャだということはこの記事からも若干窺えるように、去年の段階でほぼ公然の秘密、というところまできていた。それでもバンクシーの地元ともいえるイギリス・ブリストルの関係者たちは口を割ってはいなかった。
*
正体不明、一夜にして作品を描き上げてまたどこかに消える、それらの存在と行為のすべてを含めてバンクシーの芸術だということがわかっていたのであろうと思う。まあ、口止めされてもいたのだろうけれども。
*
正体を暴かれたことでバンクシーという幻想そして芸術は消え、ロバート・デル・ナジャという勤勉なミュージシャン、アーティストが現れた。あなたでも私でもありうる匿名の誰かではなく、ロバート・デル・ナジャのメッセージとしてグラフィティを受け取らざるを得なくなった。
*
実在しているはずの表現主体が一貫して不明のままの芸術作品はどのようにして成立し、評価され、そして流通するのか、果たして芸術とはなにか、という実験も、そのトバ口で終わってしまった。偶然にご本人が写真に映り込んでしまったとはいえ残念なことである。
*
たぶんグラフィティはしばらくお休みにせざるを得ないと思うけれども、作品自体はステンシルで描かれるので、現場作業に代役を立てることもまったく不可能ではない。期待を込めてバンクシーの大量増殖=アンディ・ウォーホル式、にベットしておく。(了)
OCN モバイル ONE データ通信専用SIM 500kbpsコース
CMで話題のコスメやサプリがSALE中☆
【DHC】最大70%OFFのSALE開催中!
0 件のコメント:
コメントを投稿