天皇の譲位予定日は平成31年4月30日であるから「平成」が終わるのはまだ1年以上も先のことだ。それでもとっとと総括してしまいたくなるのは居心地があまりよろしくないから。意地の悪い知り合いにこの話をしたら「それはゲームの負けが込んできていきなりテーブルをひっくり返すようなもんじゃないのー」といわれた。
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その通りでござる。面目なし。振り返れば私は生まれてから一貫して現実というものに負け続けているのである。敗北に次ぐ敗北、敗走に継ぐ敗走である。夜も日もなく逃げ続けて青息吐息、そもそもいちばん最初になにを求めて叛旗を翻したのかさえ忘れてしまいそうだ。生まれてこのかた生まれてこのかた生まれてこのかた!!!!!!!!(by吉幾三)
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敗走の後遺症のひとつに大きな記憶の欠落がある。前にも書いたけれども自分の結婚式のことさえなにひとつ憶えていない。なじられようが泣かれようが嘲笑われようが、記憶にないものはない!!(by近藤正臣)。おまえはどうしてここにいるのだ? とはさすがにクチにしなかったけれども。
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たぶん真面目に仕事をしたことも一度もないような気がする。たぶん、ような気がする、ではなくたしかに一度たりとも本気で仕事に打ち込んだことがない。私にとっての仕事とはなにごとかに取り組みつつ、いつもその正邪のバランスをぼんやりうっすら考えてしまうことだ。結果それほどの金を稼ぎもせず、バランスはつねにマイナスに留まる。
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そのうえワガママであるから、自分を中心に世界が回っていると思っている、といわれたことも一度や二度ならず、である。鼻持ちならない!! は日常茶飯事。だがしかし、自分は世界と同じ質量をもつと考えなければ生きていけないのではないか?
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世界よりも小さな自分では世界のまわりを周回軌道にのってグルグル振り回され続けるしかない。この状態の見方を変えれば、すなわち世界は自分をほったらかしにしてグルグル回っている、ということになる。そら寂しいでんがな。まあこの尊大な自我がどこから舞い降りたか、こんど須藤凜々花(21)にお手紙で相談してみる。
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そんなこんなな私なのでエラそうに元号区分で時代論を語るなどとは甚だおこがましいのである。それでも、先ほどの世界と自分との位置関係ではないけれども、なにごとも視点が変わればまた違った様相が見えてくるもので、浮き通しに浮いている人間の感覚というのにもそれなりに意味があるのかもしれない、と思ったりもする。居心地の悪さの正体を掴まねばならぬし。
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平成はどんな時代か。経済格差、少子高齢化、インターネット社会、失われた20年、と人それぞれに切り口はございましょうが、中心が隠されたフラットな世界、という寂寞とした印象が私にはまずある。「国の内外、天地とも平和が達成される」の意、という「平成」の解題そのものともいえる。おもしろくもなんともない。
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しかしこの解題からさらに私がイメージするのはどこまでも続くオレンジ色の砂漠と鮮やかな蒼穹に色分けされた砂の惑星(not初音ミク、not「Dune」)であり、蒼色の天空の涯には光速で移動する都市があり、砂の底には『トレマーズ(Tremors) 』(1990)に出てくる地底生物みたいな魑魅魍魎が蠢いているかもしれない、というものである。
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でもって地上にただ1人残された私は世界の中心がどこにあるのかもわからないのでどちらへ向って歩いていけばいいのか見当もつかず途方に暮れている感じである。切ないでんがな。もう、中心が隠されている、中心がわからない、といった段階で世界と対峙することだけが生きるよすがであった私は完全にアウトである。バッターボックスに立たせてさえもらえない。
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どうしてこんなことになってしまったのかと考えれば、平成はいちおう上辺だけでも「国の内外、天地とも平和が達成される」であったからである。平成は近現代で唯一、戦争のなかった時代だ。世界は私の何万倍も狡猾である。
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◆ 明治27年(1894)日清戦争
◆ 明治37年(1904)日露戦争
◆ 大正3年(1914)第一次世界大戦
◆ 昭和6年(1931)満州事変
◆ 昭和12年(1937)日中戦争
◆ 昭和16年(1941)太平洋戦争
※昭和25年(1950)朝鮮戦争
※昭和40年(1965)ベトナム戦争
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平成に入り、多くの日本人の「戦争」は抽象概念になった。理屈ではわかるけれども実体は掴めない。戦争に向かった足跡の上にも砂は舞い落ちて平らに隠れてしまった。
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姿を消していく戦争の朦朧とは対照的に、日常はますます高精細に可視化される。これがもうひとつの私にとっての「平成」のイメージである。白地のうえのマゼンタとイエローとごく少々のシアンは、決して混じりあって肌色になることはなく、いつまでもマゼンタとイエローとごく少々のシアンのドットのままだ。
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人間はそうして高精細に可視化されたうえで相互監視、相互確認の手続きを間断なく繰り返しながら勝手に承認される。人によっては身ぐるみ剥がされて丸裸、の感覚にもなろう。
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そもそも敗走に敗走を重ねている私であるから、この状況はたいへんによろしくない(by梅沢富美男)。別に後ろ指さされるような真似はしていないけれども、衣食住すべからくに視線を感じ、定量化への恣意を感じるのは不快である。曖昧な場所がないと息がつけない。
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その曖昧な場所には何平方メートルあればよろしいか? と聞かれても答えようがない。しかし、でもまあ、それはまずそちらから希望を出していただかないとお話のすすめようがありませんからね、が平成である。
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まったく、私は私が私であるとバレるのがイヤでメンバーズカード、サービスカードの類も一切もっていないのだ。もちろん気休め。しかし私の名前は私のもの。現金の使用不可? それは法律に抵触するんだよねえ、あんた。
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《 強制通用力を有する貨幣、すなわち通貨による支払いは最終的なものであり、受取人は受け取りを拒否することができず、これにより決済は完了する(支払完了性)。》※Wikipedia
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トシをとってしまったのであろう。目がかすむ。砂の惑星のうえの一粒一粒の砂とビットマップが重なって見える。そうか!! そうか!! 私は地上にただ1人残されているのではなくて、元はといえば無数の人々が解体・粉砕されてできた砂の上、分解されて散ったビットマップの上に立っているのだ。そういう私も傍から見ればチリアクタ。
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わけのわからぬことをグダグダ呟かせていただいているうち、2017年、平成29年が終了する。来年は真面目に砂漠に水をまこう。みなさまよいお年を。(了)
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