テレビのお笑いはどうしてこうつまらなくなってしまったのだろう? いつもいつも芸人のプライバシーの暴露や楽屋落ちばかり。そこらへんの素人の世間話とそれほど変わらないようにさえ聞こえてくる。
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そもそもこうしたお笑いの流れをつくり出したのは『オレたちひょうきん族』(フジテレビ・1981.5.16〜1989.10.14)だといわれている。それがどのような番組だったのかも含めて、以下の記事をご覧いただきたい。
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【[バラエティ黄金時代]なぜ「オレたちひょうきん族」はお笑い界の歴史を変えたのか】
《80年代の社会現象のひとつに、漫才ブームが挙げられる。B&Bやツービート、島田紳助・松本竜介やザ・ぼんち。そして、上方漫才の長である、横山やすし・西川きよし。この立役者たちが、フジテレビ系の日曜よる9時に『THE MANZAI』(『花王名人劇場』の枠内)を開始させると、人気が過熱。絶頂期の80年には、関東地方で30%超え、“笑いの本拠地”関西地方では45.6%の視聴率を叩き出したほどだ。
その流れを汲んで翌81年にスタートしたのが、『オレたちひょうきん族』(フジ系)。当初、土曜よる8時といえば、国民的コメディアンだったザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』(TBS系)が独占していた。そこに、ビートたけし(ツービート)、明石家さんま、紳助、片岡鶴太郎、山田邦子、西川のりお(のりお・よしお)、おさむ(ザ・ぼんち)、島田洋七(B&B)、ヒップアップなどが対抗。すると、翌82年には、視聴率が逆転。およそ3年後(85年)には、おばけ番組を終了させて、“土8戦争”を見事に制した。
ではなぜ、“ひょうきん族”はお笑い界の歴史を変えることができたのか。ひとつに、芸人のキャラクター化がある。それまでは、話術のみで知られていた芸人たちが、本格的なコント、度の過ぎるアドリブ、私生活の暴露によって、的確なキャラクターが付けられた。その強度も、回を重ねるごとに増していったため、浸透するに時間はかからなかった。そして、その人気を盤石化したのは、たけし扮する“タケちゃんマン”だ。
〈— 略 —〉 》
(※「リアルライブ」2015年5月21日配信)
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このあとお話はタケちゃんマンからブラックデビル、アミダばばあ、ナンデスカマン、妖怪人間知っとるケへと移り、さらに他局の番組のパロディ、女子アナいじり、女子プロレスラーと芸人との対決などにふれて終わる。
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となるとここでいわれている“キャラクター”とは番組内でつくられた架空のヒーロー、パロディとしてのヒーローのことなのか? と疑いたくもなる。しかし記者は芸人本人の個性をデフォルメして見せる人としてのキャラクターのことをいっているらしい。文脈を辿ると完全に間違いではないけれどもややこしい。
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本題は「芸人のキャラクター化」である。たとえば『オレたちひょうきん族』の出演者をざっくり思いつくいいかたで表現すると、人でなしの兄・ビートたけし(70)、軽すぎる弟・明石家さんま(62)の女好き兄弟、ミソッカスの島田紳助(61)、イジメられっこ片岡鶴太郎(62)、といった感じである。
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片岡鶴太郎は熱いおでんをむりやり食べさせられたり容赦なくパンツを脱がされたりゴムパッチンの犠牲者になったりしていたし、島田紳助は明石家さんまの部屋で門前払いを喰らう貧乏くさい女、くらいの役柄しか与えられていなかった。
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ともあれ芸人がこうしたキャラクターを忠実に演じることによって「度の過ぎるアドリブ」が可能になり、「私生活の暴露」が笑いのネタになり得たのである。そしてここに、ドリフターズのつくりこんだ笑いにマンネリと予定調和の白々しさを感じて食傷気味になっていた視聴者が飛びついた。
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であるからタケちゃんマンからブラックデビル、アミダばばあと続くヒーローもののキャラクタターは、一時代を築いたドリフターズの『8時だョ!全員集合』を支えた低年齢視聴者層の受け皿として機能したにすぎない。すぎない、とはいってもたいしたものであるけれども、お笑いの歴史という観点から見れば枝葉末節になる。
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では「度の過ぎるアドリブ」や「私生活の暴露」は、ほんとうに「オレたちひょうきん族」以前にはなかったものなのであろうか? ドリフターズ・加藤茶の証言がある。
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【加藤茶、『全員集合』打ち切りの原因となった『ひょうきん族』に言及「さんま・たけしのような、アドリブは俺たちに出来ない」】
2015年6月12日放送のTBSラジオ系のラジオ番組『たまむすび』(毎週月-金 13:00-15:30)にて、加藤茶がゲスト出演し、同時期に放送されていたザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』と『オレたちひょうきん族』の違いについて語っていた。
『8時だョ!全員集合』は、1973年4月7日放送の50.5%で驚異的な最高視聴率を叩き出すが、82年頃からはフジテレビの裏番組『オレたちひょうきん族』の台頭により、視聴率で苦戦を強いられた。1985年9月28日に16年の歴史に幕を閉じることとなるが、その大きな原因となる『オレたちひょうきん族』の特徴について、加藤茶は指摘していた。
玉袋筋太郎:『8時だョ!全員集合』の視聴率50%って。
加藤茶:最高がね。50.5%かな。
玉袋筋太郎:50.5%で、30%になった時に、視聴率が落ちたって落ち込んじゃったっていう(笑)
加藤茶:そう。30%とった時に、「ドリフはもう終わった」って言われたんだから。
小林悠:今、30%とれる番組なんかないのに。
加藤茶:ないよね。なんで終わったのかって。
玉袋筋太郎:本当ですよね。『オレたちひょうきん族』が出てきたりとか。色々ありましたからね。
加藤茶:うん。
玉袋筋太郎:時代が移り変わる瞬間もあったのかもしれないけど。でも、ずっとドリフは王道で続いてたわけですもんね。
加藤茶:うん。俺たちには、ひょうきん族みたいなことはできないわけだよ。
玉袋筋太郎:はい。
加藤茶:俺たちは、コントを考えて考えて、作りこんでるから。
玉袋筋太郎:はい。
加藤茶:だから、さんまちゃんとか、たけしくんとか。アドリブでやるじゃない?
玉袋筋太郎:はい。
加藤茶:アレが、俺たちにはできないんだよ。
玉袋筋太郎:作り込みですよね。当時のスケジュールって、土曜日が本番じゃないですか。
加藤茶:土曜日が本番で、金曜日が土曜日のリハーサルになってて。
玉袋筋太郎:はい。
加藤茶:木曜日が、次の週のネタを考える。
玉袋筋太郎:はい。
加藤茶:ネタをを考えるのが、なかなか出てこなくてイヤだったなぁ。
玉袋筋太郎:これは、メンバーの方が集まって、作家の方が集まってって感じですよね?
加藤茶:出て来る時は、ワーワーとウケながら出てくるのよ。だけど、出なくなるとシーンとしてさ。
玉袋筋太郎:その時のリーダー、どんな感じなんですか?
加藤茶:偉そうにね(笑)タバコ吸ってさ、ネタ出てくるの待ってるんだよ。俺たちは考えて。
小林悠:うなだれて。
加藤茶:一言も何もしゃべらないで。たとえば、鉛筆なんか落とすと、音がまたデカく出るのよ。
玉袋筋太郎:静かですからね(笑)
加藤茶:イヤな雰囲気だったなぁ。
〈— 略 —〉 》
(※「世界は数字でできている」2015年6月13日配信)
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しあわせなのか不しあわせなのか判別のつきにくい加藤茶(74)ができない、とおっしゃられているので、やはり「度の過ぎるアドリブ」や「私生活の暴露」は、『オレたちひょうきん族』が嚆矢だったのであろう。これがいまの喋り重視、プライバシーの切り売りと楽屋落ちばかりのお笑いの原点なのである。
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そしてそうしたお笑いが主流になったのにはテレビというメディアの特性が大きく働いている。『産經新聞』の特集アーカイブ「戦後70年」のなかに、そのあたりの経緯が語られているものがあった。
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【ドリフが「ひょうきん族」に負けた日】
《 ■テレビが「芸」を殺した
テレビの午後7時から11時までのプライムタイムの視聴率1%は、関東地区で40万人、関西なら16万人、全国では117万人の視聴者に換算されるという。
この時間帯のお笑い番組は、15%の視聴率を稼ぐと「合格ライン」とされる。単純計算すれば1755万人の視線を画面に向けさせたことになるが、振り返ってみると、新聞や雑誌を含む活字メディアで、これほど影響力のある媒体がどれだけあるだろうか。
在京キー局の番組プロデューサーは言う。「劇場で300人を笑わせるのと、1755万人を笑わせるのは、同じ『お笑い』でありながら次元が全く異なる。だからこそ、テレビでウケるには、その違いを理解していなければなりません」
舞台に立つ芸人たちは、客席の温度をリアルに肌で感じ、「空気」を読み取ることができる。だが、テレビの場合、視聴者の笑い声が返ってこない。しかも、番組がおもしろくないと感じれば、さっさとチャンネルを変えられ、画面の向こう側にある空気は読めない。ただ、唯一の反応があるとすれば、後日発表される視聴率だけである。
かつて「花王名人劇場」(関西テレビ系)などを手掛け、漫才ブームの火付け役となったテレビプロデューサー、澤田隆治は言う。
「テレビが求める笑いとは分かりやすさ。そこに『芸』なんか求めていません」
漫才ブームの渦中だった昭和56年、テレビのお笑いを根本から変えたと言われるフジテレビ系の大ヒット番組「オレたちひょうきん族」がスタートした。
ブームで名を売ったビートたけしや島田紳助らがそのまま横滑りする形で出演した番組のコンセプトは、アドリブを重視した即興的な笑い。それは当時、いかりや長介率いるザ・ドリフターズの看板番組として、圧倒的人気を誇った「8時だヨ!全員集合」(TBS系)へのあからさまな「挑戦」だった。
当時の「ひょうきん族」プロデューサー、横澤彪(たけし)=故人=は生前、次のように語っている。
「僕が特に気を配ったのは、漫才という笑芸をどう新しく見せるかでした。言い換えれば、吉本の漫才師たちが築き上げた話芸をいかに解体し、キャラを引き立たせるかに苦心したということです」
横澤が求めたのは「芸」ではなく芸人の「キャラクター」。入念なリハーサルを繰り返し、お決まりのオチに向かって突き進む「ドリフ的笑い」とは一線を画した新しいスタイルを確立することで、ひょうきん族は盤石の“王者”を完全に抜き去った。
「冗長な部分、ウケてないところはどんどん編集を入れましたね。テレビは食事をしながらとか、本を読みながらとか、いつも何かを『しながら』見る媒体ですから、視聴者の耳目を引きつける演出が必要だったんです」
共演者からネタを振られたら必要以上に大げさに切り返し、突然のハプニングにはオーバーアクションで自分をアピールする。ひょうきん族で横澤が取った手法は、その後のお笑い番組の「主流」に変わったが、一方で芸人から「芸」を奪う皮肉も招いた。
澤田は自戒を込めて言う。「芸を失った芸人は、芸人ではなくタレント。リアクションだけなら素人でもできる。僕が思うに、今の時代の最高の『リアクション芸人』は、橋下徹さんじゃないですか?」
「15分のネタを3分でやらせる」「実力よりもキャラを重視する」…。今、そうしたテレビのお笑いに対する批判は、「ベテラン」と呼ばれる芸人になればなるほど強く感じている。
ベテラン漫才コンビ、オール阪神・巨人のオール巨人は「テレビがなかったら芸人はもっとつぶれている」と前置きした上で、こうも付け加えた。
「僕らは劇場で一番頑張るし、大事にしている。でもテレビやと、漫才が編集で無残にカットされてしまう。ええ格好やなくて、ほんまお客さんに悪いと思っています。だからもう一生、テレビには出なくてもいいですね」(敬称略)
※産経新聞連載「吉本興業研究」の一部を再録。》
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澤田隆治や横澤彪の考えていたことをもっと端的にいえば、視聴者はまったくこらえ性がない、ということである。その番組に視線がきたら間髪を入れず笑わせなければならない。グズグズ段取りを説明しているヒマなどない。であるから顔を見ただけですぐにその場の状況がある程度は読める「キャラクター」があることが大切なのである。
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そして笑いのネタは速射砲のごとく次々に繰り出されていくことが理想だ。そこでヒナ壇というものが考え出され、何人もの「キャラクター」たちが並んで口々に笑いを取りにいく群像劇が展開される。
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不細工でキモいノンスタイル・井上裕介(37)、スベり芸のますだおかだ・岡田圭右(48)、キレ芸の竹山隆範(46)、それにおバカなハーフタレントなどなどが、それぞれの持ち場でトークを交わす。
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あ、キャラクターといえば『さんまのお笑い向上委員会』(フジテレビ)に出ている、ペナルティ・ワッキー(45)のヒゲグリアも上げておかなければならないであろう。その古典的で惨たらしいばかりのダメさ加減に敬意を表して。
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さてしかし、いまやこうしたトーク系のお笑い番組にも私たちは一様に食傷気味である。「度の過ぎるアドリブ」や「私生活の暴露」のおかげでマンネリや予定調和とは無縁なはずであるのに、もう楽しくない。なぜか?
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私たちは番組を縛り付けるように張り巡らされたさまざまなタブーや自主規制や忖度の存在を知ってしまったからである。スポンサーや権力者への配慮、芸能界でのそれぞれの位置や芸歴への配慮、芸能プロダクションの力関係への配慮、それらがまた新しい予定調和の白々しさとマンネリを生んでいるのだ。
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すぐ笑わせろ、楽しませろといっておいてもう飽きた、つまらないとはまあワガママ放題であるけれども、観てやっているのだ。私たちの視聴率がテレビ局のメシのタネなのであろう。せいぜい頑張っていただきたい。
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そしてテレビというメディアにとって都合のいいお笑いでありつづけることは、もうお笑い自体にとってもプラスにはならない。と思う。これ以上、奇妙なキャラクター=奇人変人を増やしてどうなるというのだ?
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私生活の切り売り=ネタ化が一部芸人の特権意識を煽り、宮迫博之(47)のような厚顔無恥を生み出していることも看過できない。『オレたちひょうきん族』から36年、「度の過ぎるアドリブ」や「私生活の暴露」というフォーマットについたヨゴレを、安っぽい忖度やタブーに惑わされず、きれいさっぱり洗い落す時期にきている。と私は思う。
スポンサーもいつまでも鈍感なふりをしているとは思えないよね。(了)
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