まるで良質の掌編小説のような、あまりによくできている、とつい呟きたくなってしまうニュースに出くわした。おかげで空想の世界に引き込まれて気付けばちょうど1時間も経っている。このニュースである。↓
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◆『西日本新聞』2018年12月16日配信
【内縁30年、死んだ妻は誰? 無戸籍か、身元分からず 大野城死体遺棄事件17日初公判】
《 福岡県大野城市内で10月、アパート一室に内縁の妻の遺体を遺棄したとして、死体遺棄容疑で男が逮捕された。妻は「ユミコ」と名乗り、一時は仕事もしていたが、県警が調べても身元を特定できなかった。免許証や住民票もなく、「無戸籍状態」だった。30年連れ添った男も「今となっては、妻がどこの誰だったのか分からない」と話す。
男は住所不定、無職奥田義久被告(74)。起訴状によると、昨年10月下旬ごろ死亡した氏名不詳の女性(妻)の遺体を遺棄したとされる。一部白骨化し、死因は分からなかった。
被告によると、妻とは33年前、北九州市戸畑区にあったキャバレー「太陽」で出会った。妻には4歳ぐらいの子どもがいたが、数年後に駆け落ちしたという。妻の言う通りなら1963年11月27日生まれで、死亡時は53歳だった。
春日署は、キャバレー関係者や区役所に聞き込むなど「手は尽くした」(署幹部)。キャバレー関係者は「似た人がいたかも」と話したが、身元は特定できなかった。取り調べの最終日、捜査員は被告にこう声を掛けたという。「奥さんのことは分からなかった。ごめん」
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福岡拘置所(福岡市早良区)で今月11日に被告に面会した。
被告は淡々と半生を語った。2人は大野城市に移り、パチンコ店に住み込みで働いた後に、事件現場のアパートに引っ越した。妻は「奥田ユミコ」として食品加工会社などで働いた。給料は妻の銀行口座に振り込まれていた。不可解なことは多かったが「詮索はしなかった」。
一昨年ごろ、妻は仕事を辞め、被告の年金で暮らしていた。妻は一度も病院に行ったことはなかったが、昨年、目が少しずつ見えなくなり衰弱していった。ズボンや下着を脱がせてあげないと用も足せなかった。
病院に連れて行くため「昔の住所を言ってくれれば身分証作ってくるけぇ。借金してもいい」と何度も説得した。だが、かたくなに拒まれた。
その年の10月下旬。野菜ジュースを飲ませると「あぁ、おいしい」とつぶやいたのが最期になった。冷たくなった妻を前に「頭が真っ白になった」。遺体をベッドに移して消臭剤を置き、そのまま暮らした。大家には「妻は実家に帰った」とごまかした。
アパートの取り壊しに伴う退去期限が迫った今年9月末、遺体を放置して逃げた。「30年も一緒にいた。嫌いになってしたわけではない。『わかってくれ』という気持ちだった」
妻は一体誰だったのか-。捜査関係者は「無戸籍だったとは思うが、妻がうそをついていたかもしれない。真実は分からない」と話す。17日、福岡地裁で被告の初公判が開かれる。
〜 略 〜》
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感じたことを列挙していこう。
◆ 奥田被告(74)の内縁の妻「ユミコ」が亡くなったのは2017年10月。「ユミコ」の言葉にもとづけば死亡時の年齢は53歳。奥田被告も当時は73歳であったはずだからちょうど年の差20歳ということになる。
◆ 2人が出会ったのはいまから33年前(1985年)で、 そのとき奥田被告41歳。「ユミコ」21歳。
◆ すでにそのとき「ユミコ」には4歳ぐらいの子どもがいた。つまり17歳のころに生んだ子ども。
◆ 「ユミコ」が働いていたキャバレー「太陽」があった北九州市戸畑区から駆け落ちした先の大野城市まではわずか約70kmの距離。九州自動車道を使えばほぼ1時間で着く。駆け落ちというには近すぎる。
◆ しかも奥田被告と「ユミコ」はそれから約30年間も一貫して大野城市に住み続けている。発見されることを恐れてはいなかったようだ。奥田被告と「ユミコ」の孤独が覗く。
◆ これらには「ユミコ」の子どもの存在が関係しているのかもしれない。また自らの出生についてかたくなに口を閉ざしていた理由も子どもにあるというふうにしか、現状では考えられない。
◆ 駆け落ちした2人が最初パチンコ店の住み込みとなったのは、当時まだパチンコ店の採用はおおらかで、わけありの人々にとってのセーフティネットの役割を果たしていたからだろう。
◆ 「ユミコ」が亡くなったときに死亡届を出さなかったのは、無戸籍の状態を苦にしたからだろうか。
◆ 暑い九州で腐敗していく死体とほぼ丸1年間も同居するというのはたいへんなことのはずだ。
◆ 戸籍制度があるのは日本と韓国、台湾の3国だけ。うち韓国の戸籍制度は日本による統治時代につくられている。他の国々の多くは出生、結婚、死亡ごとの登録や個人登録、およびそれらが合体した制度を取っている。
◆ 戸籍制度は戦後(1947年)に廃止された「家制度」の名残ともいえる。「家制度」とは「親族関係を有する者のうち更に狭い範囲の者を、戸主(こしゅ)と家族として一つの家に属させ、戸主に家の統率権限を与えていた制度である」(Wikipedia)。
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残酷で寂寥感に満ち、かつあたたかくもあるこの2人の物語はワタクシに、たいへん失礼かもしれないけれども是枝裕和監督(56)の『万引き家族』を彷彿させる。あなたならどのようなストーリーを思い描くだろうか。「ユミコ」さんのご冥福をお祈りする。(了)
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