中国で行われたヒトの頭部移植手術(11月22日)→ 中国臓器移植の闇(11月23日)、とザックリ眺めてきたら、やはり、では日本人はそれを利用していないのだろうか? という疑問がわく。とうぜん利用していないはずはない。
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まずはもういちど“中国臓器移植の闇”とはどのようなものなのかにふれておこう。「移植ツーリズムを考える会」は〈設立趣旨〉の冒頭において中国の臓器移植についてこのように記している。
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《 中国はアメリカに次ぐ世界2位の臓器移植大国である。しかしその臓器提供源に疑いの目が常に向けられてきた。2006年、カナダ国家勲章受賞者の人権弁護士と同国元アジア太平洋州担当大臣が調査プロジェクトを発足し、10年間にわたった研究で下記のことを明らかにした。
①中国の年間臓器移植件数は政府公表の1万件を遥かに上回り、年間6万から10万件にのぼる。
②移植に使われる臓器の大半は、法輪功学習者を含む「良心の囚人」から強制的に摘出され、政府公認のもとで行われた「臓器需要に基づく殺人」によるもの。
③この残虐な行為は現在もなお続いている。》
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「臓器需要に基づく殺人」、つまりオンデマンド殺人だ。その犠牲者には法輪功学習者が多く、武装警察医院、軍医院、公安医院をを除いた一般の人民病院、市立医院などだけでこの10年間で50万人を超えているという証言もある。(「移植ツーリズムを考える会」2015年8月31日配信【内情を知るものの暴露】)
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オモテ向き中国では外国籍患者への生体ドナーからの臓器提供を禁止(2010)するなどしているけれども、ここまでの規模になっていればすでに産業といいたくなる偉容である。では日本側の事情はどうなっているのだろう?
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◆『産経ニュース』2017年7月28日配信
【チャイナ“臓器狩り” 日本は最大の顧客か】
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日本臓器移植ネットワークによると、今年6月末時点で、腎臓や肝臓などの臓器提供を待っている国内の患者は1万3450人。多くの患者は待機リストに名前を連ねて移植を待つが、中には高額な費用を出し海外に渡航して移植を受ける患者もいる。中国の病院の中には、日本人や韓国人を主な“顧客”と想定している病院もあるとされる。
海外に移植のため渡航することを禁止する法律を持つ国もある中、日本は臓器売買を禁止する法律は持つが、渡航を禁止してはいない。加瀬氏(※外交評論家・加瀬英明)は「中国で臓器移植を受けている患者は日本が一番多いとも言われている。中国で臓器移植を受けることを禁ずる法制化まで持っていきたい」と活動の狙いを明らかにした。
■ 日本人の実態解明を
ただ、実際にどの程度の患者が海外で移植を受けているかは分からない。渡航移植をめぐっては、反社会的勢力がビジネスとして国際的に暗躍しているとの指摘もある。
〈— 略 —〉
「数百人の日本人が中国で移植を受けたといわれているが、うまくいった例だけではないはずだ」と加瀬氏。考える会は今後、こうした日本の患者の情報などを集め、実態解明につなげるという。》
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臓器提供を待っている国内患者が1万3450人いる状況のなかでの「数百人」。果たして妥当なのであろうか?
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前掲「移植ツーリズムを考える会」の〈設立趣旨〉中の記述、「中国の年間臓器移植件数は(中国)政府公表の1万件を遥かに上回り、年間6万から10万件にのぼる。」によれば、年間5万から9万件の闇の臓器移植手術が行われていることになる。
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そこで「中国で臓器移植を受けている患者は日本が一番多いとも言われている」なのであるから、これまでの「数百人」は少な過ぎるような気がする。現在臓器提供を待っている1万3450人の国内患者は、結局、中国あるいはその他海外での臓器移植を受けずに残った方々ではないのか、と性格の悪い私は邪推したりする。なにしろ国内でのドナー(臓器提供者)は年間100人程度しか現れないのだ。
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私の父親も5年間ほど人工透析をしていた。けれどもどこからか怪しいブローカーが近づいてくるということはなかった。ちなみに日本の慢性透析患者数は2015年12月時点で32万4986人である(日本透析医学会ホームページ)。臓器移植の主な対象には、これに肝臓疾患の患者も加わるわけである。
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人工透析を導入した場合の余命は、さまざまな合併症や個々の身体条件などによって異なってくるのでいちがいにはいえない。日本透析学界ではそれらすべてひっくるめて以下の統計を発表している。
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2010年導入患者の1年生存率:87.7%
2006年導入患者の5年生存率:60.3%
2001年導入患者の10年生存率:36.2%
1996年導入患者の15年生存率:22.7%
1991年導入患者の20年生存率:16.3%
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肝臓疾患についてはさらに待ったなしの状況に置かれる。
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ともあれ中国での臓器移植の日本市場の状況は、“積極的なセールスが必要な競合状態”と“市場導入期”のあいだのどこかにあるわけである。いずれにしろこのまま放置しておけばわざわざ需要を喚起する必要はないし、密か〜にいっそう浸透していくのだろうと思う。自分の命と引き換えに中国で誰かが、と考えて諦める人たちばかりではない。
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うっかりすると勘違いしてしまいそうなので念を押すけれども、これらすでに中国で移植手術を受けた人々は違法・脱法行為を働いたわけではまったくない。現在も事情は同じ。中国側のドナー確保のしかたが“闇”というだけだ。それが人道的・倫理的責任につながっている。
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ことは命にかかわる問題なので当事者の切実さは改めていうまでもない。もし自分に十分なお金があったら、と考えている方々も、もしかしたらいらっしゃるのかもしれない。それはだいたいいくらくらいかかるものなのだろうか?
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◆『NEWSポストセブン』2017年7月13日配信
【中国渡航の臓器移植500~1500万円 後ろめたかった人は2割】
《 〈— 略 —〉
アジアの移植ツーリズムに詳しい岡山商科大学法学部長の粟屋剛教授が解説する。
「中国では移植は以前から一大産業になっている。私が現地を訪問した際も様々な国の患者がいた。日本人も民間の移植支援業者を通じるなどして移植手術を受けている」
粟屋教授は中国で移植手術を行った日本人66人にアンケートを実施。
対象は50~60代の男性が約7割を占め、大半が腎臓の移植だった。手術費用は500万~1500万円が半数以上で、業者への仲介料は100万~1000万円が6割を占めた。手術費用1500万円以上、仲介料1000万円以上を支払った患者もそれぞれ3割ほどいた。》
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うむ。最低で600万円、最高で2500万円以上。これに渡航費・現地滞在費などの諸費用がかかる。こんなふうに命を具体的な金額に置き換えられるとなんともいえない気分になる。
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中国での臓器移植についてはこうした費用や安全面での不安、そして人道的・倫理的な葛藤の他にもうひとつ大きな壁がある。帰国後の診療拒否という問題である。前掲の『NEWSポストセブン』の記事に登場した 粟屋剛(67)が書いている。
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◆『SYNODOS』2017年3月2日配信
【中国移植ツーリズムとは何か 粟屋剛】
《 〈— 略 —〉
フィリピンであれ中国であれ、アジアで臓器移植を受けて帰国した患者らの診療拒否は以前から報告されていた。それが近時、広く行き渡るようになってきた。アジア渡航移植患者も帰国後に診療を受ける倫理的ひいては法的権利がありそうだが、現実には我が国では、国立大学(付属)病院も含めて、ほとんどの医療機関がアジアで移植を受けて帰国した患者の、とくに、免疫抑制剤の処方も含めて移植後のフォローに関する診療を直接、間接に拒否している事実が多方面で指摘されている。
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なお、筆者らの中国(広くアジア)移植ツーリズムに関するアンケート調査によれば、「帰国後に、中国で移植を受けたことを理由に診療拒否をされた経験があるか」との問いに、44%が「ある」と答えている。
〈— 略 —〉
ところで、現在、医療者の間で「アジアから帰国した渡航移植患者を診療すると罰せられる」あるいは「帰国患者のことを通報しなかったら罰せられる」などという言説がまるで都市伝説のように流布しているが、もちろん、そのようなこと(=罰せられること)はありえない。
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ただ、下記のように、各医療機関による患者帰国後診療拒否の根拠になっているかもしれない通達は、現に存在する。もちろん、ここには診療拒否せよとは一言も記されていない。
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臓器移植対策室長から都道府県等衛生主管部(局)長あての「事務連絡 平成22年2月15日」は、「無許可での臓器あっせん業が疑われる事例について」と題して次のように述べている。「管下の医療機関で無許可あっせん業が疑われる事例が発生した場合は、当室あて御連絡いただく旨、周知願います。」
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患者が帰国後に診療を受ける場合、その医療機関の選定は通常、渡航移植サポート業者が代行する。したがって、各医療機関はその時点で上記くちコミにしたがって業者を拒絶する(あるいは上記通達にしたがって、通報する)ので、結果的に診療拒否が起こる。
〈— 略 —〉 》
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なぜこうした事態が起きているかについて、粟屋剛はこう指摘している。
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《医師は医師法上、応召義務を課せられている。すなわち、同法第19条は、「診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」と規定している。医師は正当事由がない限り、診療拒否はできない。
我が国のアジア渡航移植禁止政策に患者帰国後の診療拒否が含まれているか否かは定かではない。ただ、政策としては、「中国、広くアジアに行かせない」とのみする政策よりも、「帰って来ても面倒をみない(みさせない)」という政策を加えた方がより効果的であり、政策として一貫しているとはいえそうである。
これは、アジア渡航移植禁止政策を遂行するために、渡航移植患者にいわば出口から圧力をかけるものといえる。仮にこのようなことが政策として行われていないとしても、少なくとも、広く行き渡っている診療拒否の背景には、このアジア渡航移植禁止政策があることは間違いない。》
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患者側からの反発を怖れてであろう隠微な、日本的とでも揶揄されそうなヤラシー間接的排除の感じがする。そしてこれはこれでまた現場の医師に人道的・倫理的な葛藤を押し付ける。
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国内法を整備して海外での臓器移植を一切禁止すれば闇の臓器売買、強制的な臓器提供が増えるだろう。1990年代末には商工ローン最大手の「日栄」と「商工ファンド」の“腎臓売れ!!”という脅迫的取り立てが問題になったし、それ以前にも闇金融社長・杉山治夫(享年71?)が「借金取り立て王」「腎臓売買王」「闇金残酷取り立て王」として名を馳せていた。法で規制すれば闇が増える。
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それがいま中国へ行けば数百万円から数千万円で移植できるのである。法律にも引っかからない。その影で犠牲になる人はいるけれどもこちらも命がかかっている。そうした臓器移植が必要な状況にわが身や家族が置かれたとき、いったいどうするのであろう? 同じように中国で犠牲になる誰かにもわが身を置き換えて考えられるであろうか?
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ううむ。知るということは一面でたいへん罪つくりなことなのである、と実感する。バカのままでいよう。(了)
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