たしか小学校5年生のとき、「不幸のハガキ」というものが送られてきたのである。それにはこのハガキの文面を書き写し1週間以内に5人に送信せよ、そうすれば幸福が訪れるけれども、途切れさせると不幸になる、というようなことが書いてあった。
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ほかにも宛先のリストが書かれてあって、いちばん上の1人を削除し、入れ替わりに自分を最後に加えてこれまた5人に送れば世界中から1万通だか10万通だかのハガキが届く、というものもあった。電子メールのない時代、しかも文通が人気の趣味であった時代のお話である。
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とうぜん私はそのどちらにも反応せず、その結果こうして友だちも限られ不幸の絶頂に陥っているというわけだ。
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ついさっきまではそんなチェーンメールというものがあったということすらすっかり忘れていたのだけれども、ところがどっこい、しぶとくこの世界の片隅に生きながらえていたと見える。
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◆『女性自身』2018年1月30日配信
【神田うの 友人困惑…送っていた“怪しい風水チェーンメール”】
《「神田うのさんが、奇妙なメールを友人に送りまくっているようです……」 そんな困惑の声が編集部に寄せられた。セレブタレントでおなじみの神田うの(42)だが、メールは意外な内容だった。[香港の風水専門家によれば]として、こう綴っていたのだ。
[今年2月のような月は、私たちの人生の間に2度と来ないといいます。なぜなら月曜日が4日、火曜日が4日、水曜日が4日、木曜日が4日、金曜日が4日、土曜日が4日、日曜日が4日で構成されているから。すべての曜日が4日で構成されているのです]
友人たちに送られたメールは“今年2月がまたとないチャンスである”と強調されていた。
[このような2月は、823年に一度発生します。これが、とてつもない“長者”を呼びます。最低5人にこの内容を送れば、4日以内にお金が到着するでしょう。中国の風水によれば、これを読んでから11分以内に送らなければならないといいます]
しかし823年に一度どころか、昨年2月も月曜日から日曜までのすべてが4回あった。さらに来年も同じく、すべての曜日が4回ずつで構成されている。
このような迷惑メールによる被害は後を絶たないという。受け取った人が複数の知人に転送していくことで、ねずみ算式に広がっていく。“チェーンメール”とも呼ばれており、総務省も注意を呼び掛けている。ITジャーナリストの三上洋氏はこう語る。
「チェーンメールが厄介なのは、拡散が“善意”のもとで行われること。今回の風水メールもそうですが、『友人が幸せになるために送ってあげないと!』と思って転送してしまう。“送ることが迷惑である”という認識がない。そこが、いちばん厄介だと言えます」
うののメールも[みなさま、お金持ちになりましょう!]と締めくくられている。
「うのさんは“根がまっすぐ”なので、人のことを疑うよりもまず信じるタイプ。そこが彼女のいいところなのですが、過去には信頼していたベビーシッターに裏切られて窃盗の被害にあったこともありました。家族同然の付き合いだったシッターさんを、うのさんは信じ切っていたんです。それだけに、ショックも大きかったそうです」(芸能関係者)
〈— 略 —〉
「今回のメールには『4日以内にお金が届く』と書いてありますから、それを信じた人との間でトラブルになる可能性もあるでしょう。そのことが原因で友達を失ったり、信頼を傷つけてしまうことにもなりかねません。また今回のメールがもし金儲けの一環だとしたら、うのさん自身に火の粉がふりかかる危険性もあります。有名人であればメールを信じてしまう人も多いはず。その影響力の大きさを、認識しなければなりません」(三上洋)
トラブルに巻き込まれないためにも、怪しいメールには十分気をつけてほしい。》
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神田うの大丈夫か。「根がまっすぐ」といえば聞こえがいいけれどもバカではないのか。
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この記事自体もかなりゆるい。「823年に一度どころか、昨年2月も月曜日から日曜までのすべてが4回あった。さらに来年も同じく、すべての曜日が4回ずつで構成されている」だそうである。だども考えてみ、うるう年以外は2月は28日と決まっておる。
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28日÷7曜日はきっぱり4回で割り切れてしまうではないか。つまりどうしても、どう逆立ちをしても、うるう年を除いて毎年毎年2月は「すべての曜日が4回ずつで構成され」てしまうのである。どうしてそれが「823年に一度発生」というものスゴーい出し惜しみになるのか。
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「すべての曜日が4回ずつで構成され」ている2月はゴロゴロ転がっておる。それ以外の2月のほうが少ない。でもって「みなさま、お金持ちになりましょう!」といわれても、なして! うのしゃんなして! というしかない。こんなんじゃ金持ちにもなれないし新しい友だちもできやしない。
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チェーンメールの媒体がハガキから電子メールに移っても「中国の風水によれば、これを読んでから11分以内に送らなければならないといいます」というくらいにスピードアップがなされるだけで、その構造や内容はなにも変わっていない。そんなものをITジャーナリストの三上洋(52)にもち込む『女性自身』も、なあ。ふつう社会学、まだ生きていれば文化人類学のフィールドであろう。
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海外ではチェーンメールの書き間違いや意図的な変更によって生じるさまざまなバリエーションを追跡し、よりおもしろく、幸福になれるように、という方向をめざす進化系統樹のようだ、といってみました的な研究もあるらしい。あたりまえだと思うけれども。なあ。
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日本での「幸福(不幸)の手紙」のはじまりは1922(大正11)年らしい。『東京朝日新聞』1月27日付に【舞込む謎の葉書 薄気味悪い「幸運のため」 警視庁でも内偵】という記事が掲載されている。
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記事には、この葉書はアメリカのある下士官からはじまり、地球を9度回っている、葉書を見てから24時間以内に9枚の葉書を書いて差し出すと9日後に幸運が回ってくる、しかし連鎖を断ち切ると大悪運が回ってくる、と書かれていた、とある。「9」の多用が印象的である。さなぎ、瀬戸際、臨界点のイメージの「9」。
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呪術的な匂いがするのう。おそらく郵便というシステムにまだそういう神秘さを感じ取っていた時代なのであろう。
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実際のところは、下士官であったかどうかはともかく、そもそもは英語圏の人間が日本人の知人に送ったことがわが国での事始めであり、当初は「幸福の手紙」であったものが戦後、1954年ごろになって「不幸の手紙」という亜種を生んだ、と「国立歴史民俗博物館研究報告 第174集『〈幸運の手紙〉についての一考察』」に書いてある。そういえば「トイレの花子さん」の原型とされる「3番目の花子さん」のお話は1950年ころから流付されていたらしい。
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1960年代に入ると週刊少女マンガ誌が創刊されて「へび少女」(楳図かずお)、「白ヘビ館」(古賀新一)などの恐怖漫画ブームが起きる。1970年代には「不幸の手紙」の担い手はオトナからもっぱら小学生・中学生に移る。高度経済成長期の子どもたちは恐怖に魅せられていたのである。
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そして疑問。その幸福やら不幸やら恐怖やらを運んでくるチェーンメールの呪術的空気がなして2018年のいま、神田うのに取り憑いたのか? ねえ。
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神田うのの精神といまの時代とが大きな齟齬をきたしているのではないか、そのなかで神田うのは相変わらず満たされることのない物質的欲望に衝き動かされて幼児返りを見せているのではないか、と考えればいちおうの体裁はととのうのかもしれない。神田うのは高度経済成長期の少女なのである。
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でもって東京オリンピックの後にはオカルトブームがくるのかもしれない。1970年代後半のように。(了)
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