現在時刻、2015年8月22日午後4時30分である。「長渕剛10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」のスタートまで、あと約4時間30分である。長渕剛は、今日の午後9時から明日の朝6時まで歌うのである。
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人が一生懸命に取り組んでいることを冷やかしたりするつもりは、決してない。ないのだが、このコンサートにどれほどの意味があるのか、正直疑問なのである。音楽的に、音楽史的に、あるいは社会的にどんな意味があるのか?
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入場料は1人1万5000円だそうである。急にみみっちい話になって恐縮だが、それだけの金があれば私は2週間はメシが食えるのである。2週間分ものメシ代を1人ひとりからいただいて、長渕剛はなにを提供しようというのであろう?
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単純に、定員の10万人がいっぱいになれば、入場料収入は15億円になる。たいしたものである。みんなの大好きな経済効果というやつも上がるかもしれない。しかし長渕剛、よもや金のためにやるのではないだろう。
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先にいってしまうと、これは長渕剛の長渕剛による長渕剛のためのコンサートである。還暦がすぐそこまで迫ってきている58歳の長渕剛が、自身のシンガーソングライター人生の総括として、「ワンマンで10万人」、「富士山麓」、「オールナイト」の3つのメルクマール(指標、目印、判断基準)に挑むのである。
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いや、長渕剛がそんなことをいっているのを聞いたわけではない。なぜいま「長渕剛10万人オールナイト・ライヴ2015 in 富士山麓」なのかを考えて、おそらくそういうことなのだろうなあ、と勝手に思っているのである。
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逆にいえばそれくらいしかテーマが想定できないのである。当コンサートのホームページを覗いてみても、キャッチフレーズらしきものは見当たらない。コンサートタイトルの下には「本物はどこにあるんだ? 本物の声はどこにあるんだ? 長渕剛が富士山麓で10万人と叫ぶ。」とサブタイトルのようなものがある。
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そして続けてまたその下に一段小さな文字で「夜を徹して歌い、泣き、怒り、笑い、ともに朝陽を迎え、明日へ続く道を信じたい」と、どこかの学生サークルのフライヤーみたいなことが書いてある。まあ、とにかく集まって朝まで一緒にワイワイやろうぜ、という感じなのである。
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しかし長渕剛自身には、ほんとうに話したいことなどないのである。それがあればキャッチフレーズに掲げられているはずである。いったいこの集まりの目的はなんなのか、それがはっきりしていないと人は集まらない。
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だから、はっきりと、これはあくまで長渕剛の極私的なコンサートなのである、と謳ってしまえばよかったのである。長渕剛のファンであれば、シンガーソングライター人生の総括として、「ワンマンで10万人」、「富士山麓」、「オールナイト」、に挑む姿を見届けたいと思うはずだ。
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幼いときには体が強くはなく、最初の妻、石野真子にも「疲れた疲れたといって遊んでくれない」といわれて離婚し、一転、体を鍛え抜きスパルタンなイメージをつくりあげてきたその人生の集大成の「ワンマンで10万人」、「富士山麓」、「オールナイト」なのである。
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それにしては、というか、もういつものことではあるのだが「本物はどこにあるんだ? 本物の声はどこにあるんだ?」とはいかにも弱気である。「本物はオレだ。本物の声を聞かせてやる」となぜいえない? 善かれ悪しかれこれが長渕剛の限界である。オノレの筋肉ほど気は強くないのである。
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だからこその「ワンマンで10万人」、「富士山麓」、「オールナイト」なのである。いかにも筋肉が好みそうな3点セットである。これが長渕剛が最終的に自身に設定したメルクマールなのである。長い道のりを歩き続けてきた長渕剛は、筋肉なのである。
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では、チケットの売れ行きはどうなのだろうか? 数日前まで、新橋駅前や博多駅前でティッシュ付きパンフレットを配っていたという話がある。19日にはヤフオクでなんと3枚121円で落札されていたらしい。
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確認すると、そもそも3枚で4万5000円のチケットが即決価格3万円の条件で出品され、7件の入札があり、最終的にはやはり121円で落札されている。掲示板にはモヤシ並みだとの指摘もあった。これ以前には1枚981円で落札されたとのニュースもある。
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苦戦である。あたりまえである。音楽も芸術も人生も、その総括は、筋肉が喜ぶ「ワンマンで10万人」、「富士山麓」、「オールナイト」などでできるものでは決してないのである。 (了)





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