以前、お笑いの話題の流れでナインティナインの岡村隆史(45)についてふれたことがあった。もしかして私たちはとても「恐ろしい笑い」を笑っているのではないか、と書いたのである。で、そのまま十分な説明をしてこなかったのである。
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しかし最近になって、これはもう少していねいに説明しておこう、と思いたったのである。私たちの社会は、というか世間は、ほとんど自覚もせずいつのまにかの感じで変化するものだな、と改めて思ったからである。自分自身の姿はなかなか見えずらい。我ながらたいへん立派な理由である。
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「恐ろしい笑い」を笑っているイメージは、笑いの対象である岡村隆史が、たぶん精神的な病を得たことがきっかけである。滑稽さがもし精神的変調やその影響から生まれているものならば、それを大勢の前に晒し、笑いものにするのは残酷ではないか、ということである。
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で、そういう可能性を薄々とは感じながらも意識に上げることをせず、なかばやり過ごし、そしてやがて当たり前のこととして受け取っている私たち世間の感覚はそうとう不気味ではないか、ということである。
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「たぶん精神的な病」と書いたのは、2010年に5ヵ月の入院および加療を要した変調の、正式な病名は公表されていないからである。隆史本人は「(頭が)パッカーンってなった」くらいの表現をしているらしい。
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その隆史がある日、楽屋のテーブルの上に座り、財布の金を見せて「オレお金ないねん。どうしたらええやろ」と騒ぎはじめたのを相方の矢部浩之(43)が目撃して、入院の直接のひきがねになったそうである。隆史はその以前から過重な仕事が原因で体調を崩すことがあり、心配した浩之やスタッフからたびたび休養を勧められていたものの、頑として受け付けなかったのだという。
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隆史のこの病については鬱病とする説がかなり拡散されているようだが、それは明らかに違う。鬱の状態で人に制されるほど激しく働くことなどできない。テーブルの上で騒ぐなどもってのほかである。つまりこんなに元気ではないのである。
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隆史が得た病は、おそらく統合失調症である。21世紀になるまでは精神分裂病と呼ばれていた病気で、陰性症状と陽性症状があるといわれている。陽性症状は簡単にいえば躁的である。主に急性期に生じる。対して陰性症状は鬱的で主に消耗期(急性期の激しい症状が治まってきた時期)に生じる。
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隆史の病は鬱病だったという言説は、統合失調症というよりは鬱病のほうが一般的でイメージが軽いといったような、偏見による、あるいは偏見があるとする前提にもとづく情報操作だったような気もする。なんだか回りくどいいいかたですまね。
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統合失調症の治療は主に抗精神病薬によって行われる。消耗期の鬱っぽい症状には抗鬱薬や抗不安薬が使用されることもある。2010年の5ヵ月間の休業をはさんだ前後の隆史の印象の違いは、こうした消耗期の陰性症状とその治療の影響であろうと思われるのである。
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かつてディレクターから「たまにはおもしろいことをいってください」と番組中に指摘されるほど口が重かった隆史である。そのかわり体はよく動いていた。病から復帰したあとの隆史は、ほとんどそれとは正反対である。よく喋る。そのかわりあまり動かなくなった。
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先の「FNS 27時間テレビ2015」における60分ダンスは、だから非常に奇異なのである。ほとんど寛解しましたというアピールなのだろうか、と疑いたくなるのである。なぜなら、かつては統合失調症の患者は最終的には廃人になるしかないという間違った思い込みがあったからである。
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話が少しそれた。つまり精神的変調やその影響から生まれている滑稽でも、おもしろければただ笑っていていいのか、ということであった。
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「白痴美」という言葉がある。すでにほとんど死語である。目鼻立ちはたいへんに整っていて美しいのだが、表情が乏しく情動が感じられない、というくらいの意味である。アタマがからっぽな美しさということである。差別的である。
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そして言葉だけの問題ではなく、アタマがからっぽだからこその美しさをただ美しければそれでよしとして美人の役回りにし、ビジネスをまわしていくのはどうなのか、と考えているのである。誰のことが念頭にあるのかは秘密である。アイツとアイツである。
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ある美人のアタマのなかが空っぽだからといってそれにこだわるお前のほうがよっぽど差別的ではないのか、という言葉が聞こえてきそうである。しかし、なんというのか、人間は人や世間に求められる機能だけ有していればそれでいいのか、という疑念が離れないのである。
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結果的に、隆史の場合、おもしろければただ笑っていていいとするおおかたの反応によって気分的には救われている。私は、ひと昔前のいいかたにならえば、火のないところに煙を立てようとしているだけなのかもしれない。しかしそうこうするうち、「人権」が少しずつ狭められているような気がしてならないのである。
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話は飛ぶが千原ジュニア(41)である。一般人による無断撮影について、仕事柄「しょっちゅうある」が「気にしないようにしている」そうである。SNSに上げられても「黙っているのがいちばん見られへん」と語っている。ジュニアなのにオトナである。
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さらに「それよりこっちがロケとか行ったとき、動画とか撮ってはる一般の人にスタッフが『やめてください!やめてください』っていうのはやめてよ、恥ずかしいから」というのである。「こっちがお邪魔しているのに。自分の番組ではいわないようにしてもらっている」なのである。良識のあるいいヤツである。
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きっと愛用している巣鴨の専門店「マルジ4号店」の赤パンツのご利益なのである。かつてはジャックナイフと呼ばれたジュニアにすら徳を与えるのである。マルジの赤パンツは紳士用婦人用(カタログ表記のママ)があって1枚1000円前後なのである。婦人用もあるのである。楽天にも出店しているのである。
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それにくらべて指原莉乃(22)である。TBS「UTAGE!」の企画で東武東上線 上福岡駅前で路上ライブを敢行するも客はまったくまばらであったのである。手を振っても無視される始末だったのである。早々にロケバスに逃げ込むていたらくであったのである。一般人に騒いでもらいたくても騒いでもらえない人気アイドルというのもいるのである。
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しかし莉乃は赤パンツをはいてはいけないのである。還暦ブルマになってしまうのである。その姿はおそらく、ほぼ妖怪である。 (了)





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