ネットニュースの『NEWSポストセブン』によると、「愛子さまは、毎週欠かさず『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)を録画されているそうです。」なのである。確かに『ミュージックステーション』は、地上波随一の若者向けレギュラー音楽番組である。
*
しかしそうなるとさみしいのは、フジテレビの『シオノギ・ミュージックフェア』である。こちらは30分、『ミュージックステーション』は1時間と尺の長さでは劣るものの、1964年から半世紀以上も続いている老舗音楽番組なのである。比べて『ミュージックステーション』の放送開始は1986年である。それなりの歴史はあるもののずいぶん後発になる。
*
『シオノギ・ミュージックフェア』は、かつては越路吹雪(享年56)、左幸子(享年71)、南田洋子(享年76)などが司会をしていた、落ち着いた質のよい番組だったのである。アダモ(72)やオリビア・ニュートン=ジョン(67)、スティーヴィー・ワンダー(65)などの大物海外アーティストをこの番組で見た、という方も多いはずである。格が高かったのである。
*
*
ではなぜ『シオノギ・ミュージックフェア』は愛子さまに振り向いていただけなかったのであろうか? 簡単である。ダメだからである。チャンネルをあわせた瞬間から「ダメ」が伝わってくるのである。
*
本当に呆れてしまうのである。エネルギー感がゼロなのである。ちょうど映っていたAAAなんかは踊っているんだかなんだか、まるで葬列みたいに見えたのである。まだ若いのに。制作の現場はそうとう嫌な感じなんだろうな、と思わせるのである。
*
『シオノギ・ミュージックフェア』の視聴率は関東地区で5〜6%台である。土曜夕方の時間帯としてはまあまあの数字である。格別よくもない。しかし放送開始から一貫して塩野義製薬の1社提供であり、いまも年間10億円単位のスポンサー料が支払われているらしいのである。経営的には安泰なのである。これも番組を眠くしている一つの理由かもしれない。
*
出演者にははっきりとした傾向があって、ここ数年、AKBグループとジャニーズは一切登場していないのである。そのかわりに目立っているのが、杏子(55)、山崎まさよし(43)、COIL、元ちとせ(36)、スキマスイッチなどをはじめとする、オフィスオーガスタ所属の歌い手たちである。
*
*
『シオノギ・ミュージックフェア』にAKBグループとジャニーズが出演していないのには理由があって、2013年に口パクを止めると決定したときに、なんらかの葛藤があったらしいのである。
*
まずは2013年、「きくちP」(55)が『フジテレビ音組』のブログに発表したコメントを読んでいただきたいのである。『フジテレビ音組』とはフジテレビのほとんどの音楽番組を手がけていた組織である。そして「きくちP」はその主宰プロデューサーという位置づけだったのである。「きくち伸P」といわれる場合もあるのである。しかし初代たけし軍団隊長の「すがぬま伸」(63)とは違うのである。
*
【口パク受け容れ拒否に関する「きくちP」のコメント】
『MUSIC FAIR』は去る2月6日の会議・全会一致で/『僕らの音楽』『堂本兄弟』同様/「口パク」を受け入れないことを決めました。/「多くの視聴者がカラオケや口パクでも一向に構わないと/思っている事も、充分把握し」た上で/「多くのゲストを擁する音楽番組としては、画期的な取り組み」に挑みます!/歌手であるからには、フツーに歌えることが/絶対条件だと思うので。
*
いろいろ思うところはあるのである。まず「きくちP」は1985年入社である。バブル経済の絶頂期である。そしてこの2013年時点まで、その匂い、軽薄さを色濃く引きずっている感じがあるのである。
*
*
どういうことかというと、口パクがよくないのはあたりまえである。歌番組であるならすべて生歌で放送したいのはあたりまえである。しかし突然それを禁止することによって、甚大な不利益を被る人たちもいるわけである。
*
そんな連中は歌手としてニセモノなのだから消えてもらっても仕方がない、と突き放すのは簡単である。主張はまったく正しいのである。正義の使者気分もわからないではないのである。しかしそこには歌い手の生活やプロダクション、レコード会社の経営や、という視点はまったくないのである。
*
一面でそれは徹底した強者の論理なのである。「多くの視聴者がカラオケや口パクでも一向に構わないと/思っている事も、充分把握し」なのである。視聴者すら脇に追いやられているのである。まあ、だいたい「きくちP」といわれた段階で、けっこうイラッとくるのである。
*
で、それからおよそ2年半経ったいま、『シオノギ・ミュージックフェア』では口パクはふつうに受け容れられているのである。AKBグループとジャニーズはまだ戻ってきてはいない。しかしそのうち戻ってくるのである。
*
*
実は、「きくちP」は、昨年6月の人事で『フジテレビNEXT』(衛星放送)に左遷されているのである。さらに8月には地上波での「音組」も解散させられているのである。
*
これもおかしな話なのである。いくら「きくちP」のやり方が強引だったとはいえ、『MUSIC FAIR』で口パクを受け容れないというのは、フジテレビとしての判断だったはずである。「それなら、すべての番組からウチのタレントを引き上げる」とかなんとかあったにせよ、わずか2年ほどで白紙に戻すのはいかがなものか、である。
*
強者であるなら強者の懐の深さ、広さというものがあるはずである。そこを顧みずに小手先の解決に走るのである。そしてどこまでいっても、一種の選良意識から抜け出せないのである。フジテレビの最近の低迷ぶりの根本原因を示す、格好のサンプルである。当分、愛子さまにはお楽しみいただけそうにもないのである。(了)





0 件のコメント:
コメントを投稿