一般的にいわれる遺体損壊の理由を思いつくまま述べてみる。証拠隠滅、懲罰(復讐)、宗教的儀式、対象との同化、恐怖、面白半分。カニバリズムだとこれに飢えと食味が加わるだろう。サディズム、あるいはネクロフィリアだと、そのまま倒錯した性的興奮である。
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宗教的儀式というのは、イケニエを神に捧げる、などである。対象との同化というのは、たとえばたいへんに勇敢だった敵の戦士の心臓を食べることで、自分にもその勇気を宿らせようとする、というようなことである。恐怖は、被害者が2度と生き返ってこないように、とか、その最期の表情があまりに恐ろしいので、とかいうことである。
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今回のテーマは、11月12日夕刻、同居人(28)の通報で明るみに出た、東京都福生市の殺人事件である。もうすでにご承知だと思うので、事件そのものの説明は省く。被害者(38)の顔面がはぎ取られていた事件である。合理的に説明できないことが山ほどある。まずは、なぜ遺体の顔面をはぎ取ったのか、である。死後の損壊であることは確認されているのである。
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それから、はぎ取られた顔面と凶器が現場マンション内に見つからないこともひどく腑に落ちないのである。2人の人間が暮らしていたマンションに包丁1本、果物ナイフ1丁も備わっていないというのは、不思議な話である。消えた顔面については、元検事の住田裕子弁護士が、証拠隠滅あるいは歪んだ独占愛から、犯人が食べた可能性をいち早く指摘している。
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住田弁護士がいう証拠隠滅というのは、犯行の方法が特定できなければ起訴されないのでその傷を隠したという、きわめて専門的な知見からである。素人考えでは、死体がそこにあるのだからその傷跡だけ隠しても、と思うのが普通である。したがって証拠隠滅ではないと思うのである。
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誰もが当然そう考えるように、この事件の中心人物は、通報した同居人だと私も思う。そして、「死」と「顔面はぎ取り」と「はぎ取った顔面および凶器の処分」は、必ずしもなにかの目的に沿って1本の線で結ばれたものではないと思うのである。
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被害者も発見者もそれぞれ別途に飲食店勤務をしており、発見者の説明では、当日の午前5時半ごろに前後して帰宅したのだそうである。それから少し話をして別々の部屋に寝たというのである。で、これも詳細はわからないのだが、「数時間後」に目が覚めたら、被害者が死んでいた、ということである。
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おそらく「死」は通報者にとっても突然、訪れたのだと思うのである。通報者は、時刻ははっきりしないが、事件後「なんで? なにがおきたの?」というコメントをFacebookに残しているのである。これが偽装でなければ、一緒に暮らしている人物の突然の死に慌てふためいてこんなメッセージになったと推測するのが自然である。
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死因は、自殺か他殺だとすれば、服毒または薬物の過剰摂取である。外傷はひとつもないのである。服毒あるいは薬物の過剰摂取で死んでいる同居人を見つけて、通報者は動転したのである。通報者は、身長180cm以上という大柄の男らしいが、女性ホルモンを投与していたのである。性同一性障害との報道はない。
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で、もうこれは想像だが、死んでいる同居人の「顔」に問題があったのである。遺体の表情が、著しく本人の名誉を傷つけるようすをしていたのである。それを隠すために顔をはぎ取る。頭を青いポリ袋で覆い、遺体を布団で包んだことからは、恨みつらみというより、思いやりのようなものも感じるのである。
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これが殺人で同居人が犯人だとすると、なぜ逃亡しなかったのかが、まずわからないのである。自分は殺していない、罪はないという気持ちが無意識にもあるから、現場に留まり続けられたように思うのである。
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警察への通報の第一声は「父が頭から袋をかぶり、血だらけで倒れている」である。とぼけているようにも聴こえる。しかし考えてみればただありのままを簡潔に伝えた言葉だと取れなくもないのである。電話で詳しく説明する余裕はなかったのである。
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で、「父」(2人は養子縁組をしている)が「死んでいる」でも「殺されている」でもなく「倒れている」といういいかたに、基本的に「父」単独の行動であるというニュアンスを感じるのは、うがちすぎだろうか。父が倒れている、死んだことについてはなにがあったかはわからないから、勝手にそっちで調べてくれ。
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問題は、はぎ取られた顔面と鋭利な刃物であろうと推定される凶器の行方である。もし、はぎ取られた顔が被害者にとって不名誉なものであったとすれば、「歪んだ独占愛」でも食べたとは考えにくい。それは発見者にとっても、忌み嫌われるはずのものである。
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私としては、やはり発見者は1度外出しているだろうと思うのである。凶器になった刃物、はぎ取られた顔面、そして突然の死に関わる薬物その他を処分したと推測するのである。
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それにしても、事件が明るみに出たのは11月12日の夕刻である。ただいま15日午前7時30分。丸2日半経っても、通報者の供述が、これ以上いっさい伝わってこないのである。死因の確定と、供述を裏付ける捜査をしているのであろう。
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いずれにしろ、近々、発表があるはずである。この推測は果たして当たっているだろうか?(了)


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