2015年11月17日火曜日

【ばびろん】欲望に身を焦がす平成ニッポンのシンボル【まつこ】





「ばびろんまつこ」、いい名前である。悪徳で栄えた虚飾の古代都市「バビロン」と、和風スタンダードながら最近はこじらせ気味の「まつこ」である。平仮名表記なので「びろん」がほどほど目立つところも間抜けっぽくてよい。しかしこのよくできた自虐的な名前は、半分は偶然の産物である。



松井貴博(42)がマツコ・デラックスを名乗ったのと同じ単純なルールで、「松永かなえ(26)」ならば、とりあえず「マツコ」あるいは「まつこ」なのである。「マツコ」はデラックスがすぐに連想されるので、表記は「まつこ」に落ち着く。






貴博は豪華な名前にしたいとマツコに「デラックス」をつけたのらしい。たぶん「ばびろん」の場合は、とりあえず華美でデカダンな感じで選んだのだろう。もしかすると松永かなえは、もっと意識的に、現代の退廃した社会、または東京をバビロンと位置づけていたのかもしれない。



で、まつこ・バビロン、バビロン・まつこ、まつこ・ばびろん、ばびろん・まつこ。ナカグロ「・」が入ると、やはりマツコ・デラックスを連想するし、カタカナが入ると漫画家みたいである。あ、それはバロン吉元(年齢不詳)か。






ともかく、そうこうして「ばびろんまつこ」「まつこばびろん」の2択になれば「ばびろんまつこ」である。名前の最後に「びろん」はそうとう滑稽な感じがする。しかも「まつこばびろん」では倒置したぶん「ばびろん」の印象が強い。「まつこ・ざ・ばびろん」である。しかも万一「まつこば-びろん」と読まれないとも限らない。それは私くらいか。



まつこばびろんがどういう女か、改めて紹介しておこう。Twitterで贅沢な暮しぶりをアピールする、いわゆる「キラキラ女子」「セレブ美女」であったのである。しかし10月28日、偽カルティエのブレスレットをネットオークションに出品し、京都市内の40代の女性に約65万円で販売した容疑で、京都府警に詐欺と商標法違反で逮捕されてしまったのである。



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それまで「キラキラ女子」「セレブ美女」としてネット上では多少の人気があったから、偽ブランド品の販売をしていたというニュースは、フォロワーにとってはちょっとした衝撃であったのである。



ばびろんまつこは容疑を認め、これまでに約400万円を売り上げたと自供しているのである。しかし警察は被害総額は1000万円以上にのぼるとみて捜査をすすめているのである。



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逮捕されたことで、これまでのばびろんまつこの名言Tweetの数々がネット上に晒されているのである。自分の仕事については『高額納税をしているニート、つまりはハイパーニートです』と書き込み、年収は3000万円だそうである。



『正直な話年収が1500万超えたあたりから自分より年収が低いであろう異性は自然と身近にいなくなる。いてもコンビニの店員さんとか宅配便の配達員さんくらい』なのである。なるほどコンシェルジュ、ギャルソンもすべからく年収1500万円以上なのだな。聞いておく。



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で、リッチでゴージャスでラグジュアリーな暮らしぶりについては『誕生日プレゼントはとうとうバッグやアクセサリーの域を超え、今年はなんと会社と車とドメインを貰いました』とか『日本は夏も終わりのようですが、こちらはプライベートヴィラでプール開き!』である。



『わたしが国際線のビジネスクラスやファーストクラスに乗る理由は、何も自分がそれに相応しいからというわけではなく、長時間隣に誰かいると眠れないからであって、それなのに外コンの執行役員からナンパされた日にはもうわたしはプライベートジェットをチャーターするしかないのかと悟ったわ』なんていうのもあった。






それにしても、実際は無職で、家賃16万円ほどの1LDKマンションに住んでいたらしいばびろんまつこ、盛りに盛ったTweetである。誕生日に会社と車とドメイン、プライベートヴィラでプール開き!、プライベートジェットをチャーター。……、おお、ついうっとりしてしまうではないか。



しかしばびろんまつこは、あながちバカでもないのである。この「ばびろんまつこ」という名前からも、さっき見たように、ものごとを順序だてて整理し、解決していく能力が十分に窺えるのである。



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それがなぜ、ここまで子どもじみた嘘をつくのか、である。それが今回の主なテーマである。妄想虚言症、虚言癖と片付けてしまっては、大事なものを見失う。ここに、現代に生きる人間の悲しい心があるのである。



実はかくいう私もそうとうな嘘つきなのである。子どものころはよく、トラはライオンの子ども、だとか、雲と雲が正面衝突した、とか、モルモットが年を取るとネズミになる、とか、くだらな〜いホラ話を吹いていたものである。



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で、あのとき、小学校に上がる前、なぜそんな嘘ばかりついていたのかと考えると、ただ人を煙に巻くのが面白かったのである。「ホント?」といって目を輝かせ、そのうちに嘘だとわかって文句をいいにくる。その全体が楽しい遊びだったのである。



そういう嘘をつくときの大切なポイントは、まず相手のレベルを見極めることである。その見極めにあった嘘をしつらえて、予定通りに2〜3週間くらいのうちにバレてしまうのが、自分としてはいちばん上等なやりかただったのである。






大げさにいえば、その子の世界観や考え方のクセなんかを想定するのである。それができてしまえば、あと騙すのはわけないのである。2回騙してその裏をかいて、1人あたり3回はいけたのである。



おお、ほかの子どもたちもよりずいぶん頭がよかったような話をしているが、それも小学校までだったのである。小さなころは神童と呼ばれ、大人になったらただの人というやつである。世の中に掃いて捨てるほどいる、そのひとりである。






しかし、その大人になってからも私は嘘をついたのである。会社を興したもののすぐに立ち行かなくなり、借金に追われたのである。日々サバイバル。なんとか返済を待ってもらおうと嘘の連続である。このときは、その都度メモを取っておかないと自分でも混乱してわからなくなってしまうくらい大量の嘘をついたのである。



なぜ嘘をついたかといえば、相手に裸で飛び込んでいく勇気がなかったからである。ダメなヤツである。で、なにか嘘の口実を見つけて格好をつけ、1ヵ月、1週間、1日、と返済を先延ばしにしてもらうのである。






そのときに混乱したアタマでふと思ったのは、まあ、いま思えば噴飯ものではあるが、「嘘で現実を変えることができるかもしれない」ということだったのである。



実際に人のいい債権者たちは返済を待ってくれていたし、そんなことをしているうちになんとか運よく金の都合が付けば、結果的にそれは嘘ではなかったことになるのではないか、と思ったのである。まあ、いま振り返れば、そんなバカなことを考えるヒマがあったら手っ取り早く金をつくる方法を考えろ、である。






しかしそのときはほんとうに、現実を変えてしまうほど巧妙な嘘を考え出せば、この窮地を脱することができるかもしれない、と思ったのである。このころ私の母親は2回死んだことになっているのである。



私が嘘のなかで殺したのである。まだ本人にはバレていない。しかしあとで聞いたのだが、このとき、私も妹から死んだことにされていたのである。因果応報である。恐ろしいことである。






あのころ私は、いつもアタマの片隅で『オオカミ少年』の話を思い出していたのである。いつか嘘を信じてもらえなくなるときがくる、と怯えていたのである。そんなだから、結局、会社をたたみ、すべてを整理する決心がつくまでに1年間ほどもかかってしまったのである。もう経営者失格以前のていたらくである。



後日、騙していたつもりの何人もが、実は嘘だと知って見逃してくれていたとわかったときには、思わず喉が固く締まってしまったのである。謝罪しようにも、どうにも声が出せなかったのである。嘘で現実を変えるなど、とんだお笑いぐさである。



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で、そんな私がばびろんまつこの嘘を読むと、もっぱら自分に対する暗示、呪文に見えるのである。かつての私もまた、嘘で現実を変えてやろう、読み変えてやろうと企むと同時に、まだ大丈夫、まだイケる、と自分を騙そうとしていたのでよくわかるのである。



ばびろんまつこもまた、彼女にとっては過酷な現実の前で、ただひたすら「自分は大丈夫」、「自分はセレブ」と念じ聞かせていたのである。どうしてそんなことになってしまったのか? 簡単である。ちょっとだけ身の丈以上に金遣いが粗かったのである。



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ばびろんまつこは長崎県松浦市に生まれ、高校までを過ごしている。岡山大学法学部を卒業したのち再び長崎に戻り、地元の大手企業である「株式会社ジャパネットたかた」に職を得る。しかしその後退職、上京して「株式会社DMM.com」に広報として勤務、のち退職。これが経歴の概略である。



DMM.comにいつまで在籍していたのかは定かではない。今年4月にはDMM.comの美人広報としてテレビ取材を受けていたそうである。そして例の「キラキラ女子」「セレブ美女」としてのTweetは、すでに1年前、つまり在職中からはじまって400件にのぼっているらしいのである。



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確かにネット上の写真を見る限り、ばびろんまつこは十人並みの美人ではあるのである。そういえば指原莉乃(22)がまた『ワイドナショー』(フジテレビ)あたりで「実際に会ったらブス」とかなんとかゴタクを垂れていたらしいのである。おまえがいうな、である。少なくともおまえよりは美人である。十人並み、というのはそういうことなのである。



DMM.com時代の給料は、いくらか多めに見積もっても年間500万円程度であろう。で、はじめての東京暮らしで多少、好奇心や見栄、虚栄心も強ければ、あっという間に給料など使い果たすのである。






しかしその一方では、地元の知り合いにも東京でそれなりの暮らしを楽しんでいるふうに見せたい、と思ってしまうのである。そこで、たぶん偽ブランドの販売と嘘がはじまったのである。



しかもばびろんまつことしてのTweetには顔写真を何度も載せているから、リッチでゴージャスでラグジュアリーな暮らしぶりは会社にも知られることになる。で、なんだかんだでいずらくなって退職した、ということであろう。



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そしてまた、退職したからといってすぐに生活レベルを落とせもしないのである。親しい人間にスポンサーの存在を匂わせたこともあったらしいが、それはふつうの付き合いの範囲で、カネヅルになるような人間は実際にはいなかったらしいのである。



あ、そうそう。そんなばびろんまつこの嘘が激しく大げさになっていった理由は、Twitterを通して不特定多数を相手にしてしまったことに尽きるのである。不特定多数が相手では嘘をつくときの大切なポイント、相手のレベルを見極めることができないのである。



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さらに、どこかで本物のセレブが自分のTweetを見て嘲笑している、あるいはダメ出しをしてくるかもしれないといった不安もあったのである。だからこれでもか、とばかりに盛ってみせたのである。まあ、闇夜に向かってショットガンをぶっ放しているようなものである。



今回、ばびろんまつこが逮捕に至った容疑は、中国から5万円ほどで買った偽物を正規品と偽ってオークションに出品し、約65万円で売ったこととされている。本人もこれは認めている。つまり60万円の利益である。






また、本人の供述にある「400万円ほどの売上」をあげるには、すべて今回の逮捕につながったのと同じ品物、同じ価格だとして約6回分である。利益は約370万円。警察がいう「被害総額1000万円」に達するには、約16回分である。利益は約920万円である。「ばびろん」というにはささやかな犯罪である。



富裕層であるとか、セレブであるとか、超一流ブランドであるとか、情報はそれこそ怒濤のように押し寄せてくる。たとえばあるブランドが好きならば、その品質、ストーリー、哲学など、隅から隅まで熟知することは簡単である。しかし、その一方で、おそらく自分は一生それに見合う生活を手にすることはないだろうと実感したときの飢餓感はいったいどれほどのものなのだろうか?






話が少しずれる。「どんな女がタイプ?」、と当時、舞台大道具のアルバイトで食っていた友人に聞いたときの「キャサリンセダジョーンズ!」という呟くようなひとことが、耳に蘇って離れないのである。なにか悲鳴のように響いたのである。



あまりにかけ離れたゴージャスは罪つくりである。欲望のアンテナばかりがぐんぐん遠くまで伸びてしまっているのである。ああ、あそこにあるのがきっと本当の暮しなのだ。それにひきかえ、自分はなんとみすぼらしく哀れなことか。






ともかく、そういう身を焦がす飢餓感に襲われている人は数多いのだろう。ばびろんまつこのTweetには、約1万5000人のフォロワーがいたらしい。そのなかの何人かは、きっといまも「自分は大丈夫」、「自分はセレブ」、と必死に言い聞かせているに違いないと思うのである。(了)





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