デヴィッドボウイに『Five Years』という曲がある。1972年に発表された5枚目のアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』(ジギー・スターダスト)のA面1曲目である。
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地球の寿命があと5年しかないという設定の曲である。惜しくも今年1月10日に69歳で亡くなったボウイは、数多くの名曲を残してくれたのである。とりわけここ数日は、この『Five Years』がアタマから離れないのである。冒頭部分の歌詞を紹介しておく。
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『Five Years』
《乳母車を押してマーケットの一角を通る
たくさんの母親たちがため息をつく
ニュースが伝えられたんだ
わたしたちには泣く時間さえあと5年しかない
ニュースキャスターは泣きながら
地球は本当に死につつあると語ったんだ
ひどく泣いた彼の顔は濡れていた
だから彼が嘘をついていないのがわかった ……》
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たぶん地球の終りというのは、こんなふうにしてやってくるんだろうなあ、と思うのである。こんなふうに、というのは、とても平凡といってもいいくらいに日常的なようすで、である。
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もちろん突然といえば突然なのである。しかし、いったんアナウンスされてしまえば、それはずっと以前からそうと決まっていたものであるかのように受け容れられる、という感じである。私たちの潜在意識は滅亡の準備を完了したのであろうか?
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とにかく、一度この曲を聴いていていただければ、きっと時を刻むドラムの音があなたの耳の奥でも鳴り続けるようになるに違いないのである。いまはそういう時代なのである。
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と、いつにもなくハルキな気持ちでいると、いろいろなニュースが終末を暗示しているように感じられてくるのである。とくに印象深かったのは、昨日、1月25日の「バナナが絶滅の危機?」というニュースであった。元ネタはBBCである。
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バナナには「パナマ病」という伝染病があり、1900年代半ばには代表的な栽培品種「グロミシェル」がこれによってほとんど全滅→「パナマ病」に強い品種「キャベンディッシュ」を発見→それにも感染する「新パナマ病(フザリウムという菌の変種による)」が発生、という経過をたどっているのである。
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この「新パナマ病」では、毒性の強いカビが根を枯らし、さらに一度蔓延すると何年にもわたって農地が汚染されてしまうのである。しかも洪水、トラックや靴についた土が運ばれるなどで、拡散するのが早いのである。
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これまでに約1万ha、東京ドーム約2138個分のバナナ農園が閉園に追い込まれ、とくにフィリピンでは壊滅的な被害が報告されているというのである。そして困ったことには、まだ有効な予防策が見つかっていないのである。
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着々と「新パナマ病」にやられている「キャベンディッシュ」は、いま市場に出回っているバナナの主流なのである。国連食糧農業機関によると、世界で輸出されている年間1700万トンのバナナのほとんどすべてが、この「キャベンディッシュ」であるらしいのである。一説によるとシェア99%らしいのである。
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「キャベンディッシュ」全体の生産量は5500万トンにも上っているのである。サイズや形が商品向きで、味もよいそうなのである。きっと私たちもいつも食べているヤツなのである。日村勇紀(43)もきっとこのバナナである。輸出用の換金作物として効率を求めた結果、みんな「キャベンディッシュ」を栽培するようになったわけである。
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であるから、おそらく「新パナマ病=フザリウム変種」にとってみれば、「キャベンディッシュ」だらけのこの地球上は、楽園そのものに違いないのである。ちなみに「キャベンディッシュ」とはいっても、『 ONEPIECE』に出てくる海賊とは関係がないらしいのである。
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これまでにも、人はジャガイモ飢饉だとか小麦飢饉だとか、単一作物単一品種にかたよった農業のせいで何度も痛い目にあっているのである。それはイギリスでもアイルランドでも、比較的最近では北朝鮮でも起こったのである。しかしまだ身にしみてはわかっていないのである。
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多様性が大事だとかなんだとかいっても、結局は金のチカラにはかなわないのである。で、私たちビンボー人の命綱、仮想「ウィダーinゼリー」、ロングおにぎりともいうべきバナナは次第に値上がりし、やがてスーパーマーケットの売り場から徐々に姿を消していくのである。
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似たような話は山ほどあるのである。たとえば一昨年くらいに鶏卵の価格が急騰したことがあったのである。これはアベノミクスによる円安と不作の影響で輸入穀物飼料が値上がりしたためである。とうぜん、このときは同じように輸入穀物飼料に頼っている畜産農家も大打撃を受けたのである。
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ご承知のようにウシは本来草を食べる生きものなのである。しかし、乳の出がよくなる、早く大きくなる、肉に脂がのるというので、ほとんどは穀物を食べさせられているのである。
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食べた草を反芻するためにせっかく4つも胃をもっていても、それはもはや現代の日本のウシにとっては、ほとんど無用の長物なのである。そればかりか、たいへんに不健康な状態になっていることも多いというのである。粘膜の損傷や潰瘍などである。さらに穀物飼料を与えすぎると、代謝障害や繁殖障害も起こるといわれているのである。
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穀物飼料を利用しているこちら側も不自然で不安定でたいへんなのだが、それを栽培しているほうも、たいへんなのである。とくにたいへんなのは水がなくなる、という問題である。たとえば牛肉1kg生産するのに投入されている水の量はというと、以下の通りなのである。
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● ワールドウォッチ研究所の試算
牛肉1kg=穀物7kg=農業用水7t
●東京大学生産技術研究所/沖大幹助教授等のグループの試算
牛肉1kg=穀物10kg=農業用水20t
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ほぼ3倍もの開きがあるが、仮にワールドウォッチ研究所の試算結果をとったとしても、重量で7000倍の水が必要になるのである。あたりまえである。で、とくに大量の水を必要とするトウモロコシの産地では灌漑用水が枯渇し、地下水まで使い果たしつつあるのである。
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つまり、牛肉1kgを輸入/輸出するということは、7tの水を輸出/輸入するに等しい、という考え方もできるわけである。これをバーチャルウォーターと呼んでいるのである。
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地下水の枯渇は、アメリカの中西部やインドのパンジャブ州ではすでに深刻な問題である。飼料用穀物もバナナと同じで、売れるとなるとそればっかりを栽培してしまう悪い癖があるのである。
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話は変わるが、魚のホッケが数年前から大不漁なのである。理由は海水温の上昇と獲り過ぎらしいのである。ああ、そういわれれば、ここ1年ほどホッケの開きを食べていなかったかもしれないのである。以前はよく食べたのに。これでまた水族館のオットセイだのアシカだのが羨ましく見えてしまうのである。
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さらにベトナムの首都ハノイでは、100歳を超えるとみられていたスッポンが死んでしまったのである。1月22日のANNニュースが伝えていたのである。体重は200kg、全長は1.8mもあったのである。現地では不吉な前兆ではないかと噂されているのである。
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さらに、そういえば、お笑いの「ジャングルポケット」もいっときに比べてテレビに出ていないような気がするのである。気のせいであろうか? 石坂浩二(74)が『開運!なんでも鑑定団』(テレビ東京)にレギュラー出演しているはずなのに画面に映らないのはなぜなのだろうか?
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ついに『私の何がイケないの?』(TBS)も3月終了が決定したのである。江角マキコ(49)のレギュラーが全滅するが、果たして地球は大丈夫なのであろうか? だれかテレビ東京に走って関暁夫(40)に聞いてきてもらえないであろうか?
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一部、話題が日常的すぎたかもしれないのである。とはいえ、きっとこんな些細なところから平穏な日々が裂けて、地球の終り、人類の滅亡がやってくるのだろうと思うのである。なかでもバナナが絶滅、という少し滑稽な感じのするニュースが、人類滅亡のときの幕開けを告げるのに最もふさわしい気がするのである。
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そう、乳母車を押してマーケットの一角を通るたくさんの母親たちがため息をついたのは、バナナが高すぎたからかもしれないのである。(了)


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