時代の傾きだとか風向きとか、そういう雰囲気的なものはなんとなくわかる気がするけれども、今日このときに自分はどこに立っているのだろうとなると、まったく心もとない。
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それはタイムマシンにでも乗らないかぎり今日の自分を眺める視点のもちようがないのでとても難しい。もしかすると最初からムダなのかもしれない。しかし時代に流されないよう、騙されないように生きていきたい気持は強い。
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そんなふうなわけでキョトキョトと猜疑に満ちた目で街の景色やニュースを眺め、人の話を聞く。いや、いつも聞いているフリはしているけれども、実際は相手の顔に気を取られて、この人はなぜこんなことをしゃべっているのだろう? どういう経緯でここにたどりついたのだろう? みたいなことを想像している。
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仕事の場面ででもよほど馴れた相手以外にはそうなってしまうので、たとえば紹介されたばかりの人にはたいへん失礼なお話である。そんなときに自分の思いつきにかまけてついニヤリとしてしまったりなどしたら最悪である。たぶんどこか不適格なところがあるのだろうと自分でも思う。
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どんどん貧乏くさくなっていく街の景色やそこを歩く人たちの姿があり、テレビを見ればつくり手の想像力が——もちろん創造力もどんどん失われているのが明らかで、さらに日常の他人とのコミュニケーションもどんどん削られていく。ほぼ金のやりとりだけである。これは自分も悪いか。
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ともかく、そういう“どんどんどんどん”の状態でネットニュースを見ていて気になったのがこれらである。すべて2017年10月30日の配信。タイトルだけを羅列しよう。
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◆【今年3度目の死亡事故……露の製菓工場で、女性工員が溶けたキャラメルの中で生きたまま煮られる】
『日刊サイゾー』
◆【遺体とダンス 死者敬う風習がペスト感染リスクに マダガスカル】『AFPBB News』
◆【デンマーク人発明家、女性記者の遺体切断認める 警察発表】
『AFPBB News』
◆【道教の道士、「人間蒸し」の儀式で死亡 マレーシア】
『AFPBB News』
◆【ロヒンギャ難民に不妊手術検討、バングラ当局 パイプカットも】
『AFPBB News』
◆【石垣島の海岸に人の足 不明男女のものか】
『日テレNEWS24』
◆【不明女性と関連の男自宅に複数遺体 神奈川】
『日テレNEWS24』
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すべてYahoo! とlivedoorから拾っている。猟奇的な事件ばかりを扱うニュースサイトではない。しかも冒頭の5本は「海外ニュース」なので、山ほどあるニュースのなかから恣意的にこうした残酷で猟奇的な話題が集められているといえる。
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それは需要があるからだ、とサイトの担当者はいうであろうけれども、このてのものに対する需要はいつでもあるし、ただ需要に応じるだけがニュース発信者の第一義でもないはずだ。
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それにしてもロヒンギャ難民の現状はひどい。これでは忌まわしい「民族浄化(ethnic cleansing)」という言葉をつかわねばならぬ。こうした事態を招来した“ミャンマー民主化の旗手”アウンサンスーチー(72)には、みながいうように私も心底ガッカリだ。このガッカリは“解放”を勝ち取ったベトナムがさっそくカンボジアに侵攻したとき(1978)とよく似ている。甘っちょろい綿菓子のごとき理想はいつもガッツシ裏切られる。
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でもって猟奇的なニュースが増えているのは、そうしろというどこぞからの命令があるからでもなく、サイト担当者の趣味でもない。これが時代の空気というものであろう。目の前の問題、思うに任せない暮らしぶりから気を逸らすには、“残酷”や“猟奇”がうってつけなのである。
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これをいうときに定番としてよく引き合いに出されるのが二・二六事件の約3ヵ月後、1936年5月18日に起こった「阿部定事件」である。太平洋戦争(1941年開戦)に向う世情の不安から逃避するため、とかなんとか。
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「阿部定事件」をピークに「エログロナンセンス」というものもあった。昭和元禄と謳われた1980年代あたりでいったん消費し尽くされた感のある言葉だけれども、いままた再びである。あ、いまはナンセンスでもなく「愚鈍」のステューピッドかもしれない。「エログロステューピッド」。語呂がよくない。「エログロパー」でどうだ。
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Wikipediaによると「エログロナンセンス」とは「昭和初期の日本において起こった文化・芸術運動」である。「文化・芸術運動」などといわれるとまったくの他人事にも関わらずなんとなく照れくさいのはなぜであろう。困ったものである。
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『しんぶん赤旗』の戦後の回想によると、1929年(昭和4年)の大恐慌直後から1936年(昭和11年)の二・二六事件勃発までがエログロナンセンスの時代らしい。
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《 エロ・グロ・ナンセンスをテーマとする本・雑誌・新聞記事・楽曲などがブームとなり、盛んにリリースされた。代表的な作品としては、上森健一郎・編『変態資料』(1926年)、梅原北明『グロテスク』(1928年-1931年、発禁)、酒井潔『エロエロ草紙』(1930年、発禁)、尖端軟派文学研究会・編『エロ戦線異状あり』(1930年)などがある 》(Wikipedia)。
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時代のカナリアを気取るわけではないけれども、たいそう不安な時代に私たちは立っているのである。しかしとうぶんのあいだポルノは野放し、拝金主義がまかり通るはずである。禍福はあざなえる縄のごとしというけれども、時代もそんなものなのかもしれない。
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お、おおお。これはこれこれ。不安なのか喜んでいるのか、あざなえる縄のごとく矛盾を抱え込んでいるのは時代のほうではなく、私のココロのほうでござった。失礼つかまつった。(了)
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