2016年3月21日月曜日

哀悼 キース・エマーソン(ELP)。日出ずる国より





ロックトリオ『エマーソン、レイク&パーマー」のキーボーディスト、キース・エマーソン(Keith Emerson)が亡くなって、ちようど10日経ちました。どういうわけか、いまごろになって猛烈な悲しみがこみ上げてきて困ります。



キース・エマーソンは2011年3月11日、東日本大震災が起き、太平洋沿岸を猛烈な津波が襲ったその日に、日本へのメッセージとしてピアノソロ "The Land Of Rising Sun(日出ずる国へ)"を作曲・演奏し、YouTubeにアップしてくれました。3分弱の短い曲ですが、キース・エマーソンらしい知的なアプローチと、いささかの混乱を聞き取ることができます。



彼は日本びいきで、パートナーもカワグチ・マリとおっしゃいます。その彼が、あれから5年後の2016年3月11日未明(AP通信)に自ら命を絶ってしまったことを、どう解釈すればよいのでしょう? 彼はその日が東日本大震災が起きた日だということを十分に憶えていたはずです。来月4月には来日公演の予定もあったのですから。



私は『エマーソン、レイク&パーマー』の、口の悪い評論家からは「電気のムダ遣い」とけなされていた、たとえば“Tarkus”などの壮大な楽曲も、また"Still... You Turn Me On" などの静かな叙情的な曲も好きで、ビニール盤のころからよく聴いていました。



最近では、YouTubeにあがっていた、アメリカのマルチ楽器奏者Rachel Flowersのアコースティックピアノバージョンの“Tarkus”が気に入ってよく聴いていたところでした。キースエマーソンが自身のモジュラー・ムーグを貸与した少女です。



『ビルボード』誌によると、キースエマーソンの死はやはり拳銃自殺だったそうです。後退性神経疾患のために右手2本の指が思うように動かず、鬱状態だったという情報もあります。しかし、たとえ音楽に捧げた一生であっても、完璧主義者であっても、残念すぎます。



残酷な願いかもしれませんが、指に不自由を抱えたその先のキース・エマーソンを聴きたかったし、観たかったと思います。音楽は時間通りに走る列車ではありません。あるときは猛スピードで、あるときはゆっくりと、あるいは立ち止まったりしながら、人と連れだって前進していきます。



音楽は、人の心を打ち、慰め、癒します。Rachel Flowersのアコースティックピアノバージョンの“Tarkus”だって、編曲も演奏も、決して完璧ではありません。それでも強く感動させられるのは、音楽への無心さ、そして、この曲とキースエマーソンへの深い尊敬が込められているからです。こんなことを私がいうのは口はばったいことですけれども、音楽は待ってくれたはずです。



指2本が動かないくらいなんですか。ただ10本の指でキーボードを叩くためだけに音楽をやってきたわけではないでしょう。



あーあ、それならそれで早くいってくれれば、聴かせてあげたのに。北島三郎の『風雪ながれ旅』。とくに第2番ですよ。泣けますよ。



“風雪ながれ旅”

星野哲郎 作詞
船村 徹 作曲

破れ単衣に 三味線だけば
よされよされと 雪が降る
泣きの十六 短い指に
息をふきかけ 越えて釆た
アイヤー アイヤー
津軽 八戸 大湊

三味が折れたら 両手を叩け
バチがなければ 櫛でひけ
音の出るもの 何でも好きで
かもめ啼く声 ききながら
アイヤー アイヤー
小樽 函館 苫小牧

鍋のコゲ飯 袂でかくし
抜けてきたのか  親の目を
通い妻だと 笑ったひとの
髪の匂いも なつかしい
アイヤー アイヤー
留萌 滝川 稚内



キース・エマーソンが3月11日に亡くなったことは、パートナーへのとても重要なメッセージなのかもしれません。しかしキース・エマーソンの死はやはり徹頭徹尾、個人的なもので、それをたとえば私がこれ以上、東日本大震災とその後に襲ってきた大津波、カタストロフィと結びつけて考えるべきではないのでしょう。



元札幌交響楽団の首席チェロ奏者であった土田英順(73)が、2011年3月11日に津波に襲われた宮城県の海岸で鎮魂の独奏をしたとき、海上の空高くからアリアを歌う女声が聞こえてきた、という話を思い出します。その場に居合わせた20人ほどが聴いたそうです。



私はオカルト話を信じません。しかし時間の都合をつけてその場所へいき、腰を下ろして耳をすませてみます。



キース・エマーソンさん、ほんとうにありがとうございました。安らかにお眠りください。(了)




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