2015年6月10日水曜日

アラシックのみなさま、お手柔らかに


新曲「青空の下、キミのとなり」のMVのロケ地になった某スタジオが、嵐ファンの殺到を恐れて早々に訪問ご遠慮の通達を出した。彼女たちの武勇伝が耳に入っていたからだろう。



嵐ファンは、たとえばJALのCMのロケ地(北海道)でも大挙して押しかけ、私有地にもかかわらずやりたい放題のマナーの悪さを発揮して大顰蹙を買った。ロケ終了後だけでなく、ロケそのものをたびたび中断させるなんてこともあるらしい。嵐のファンは、ジャニーズファンの中でも突出して強い情報収集力と行動力を備えているのだそうだ。



そういえばむかしの話になるが、知人宅近くに突如としてジャニーズショップが開店したことがあった。ある日いつになく大勢のティーンエイジャーの女の子たちが近所をうろついていると思ったら、光GENJIのメンバーが抜き打ちで来店するらしいとのことだった。



それからが凄かった。ショップの周辺を、人さまの玄関先だろうが裏庭だろうが一切かまわず、数人ずつのグループで嬌声を上げて走り抜けるのである。しかも今度はあっちだ、いやこっちだと何度も。



20年も前の出来事といま現在の状況とは一緒にはならないのだろうが、なんとなく想像はつく。嵐の熱狂的ファン=アラシック(ARASHICK)=嵐病は相当ヤバイぞ、と。



彼女たちは、嵐のロケ地を訪ねることを「聖地巡礼」という。コンサート会場の前などで、嵐のポスターやウチワを囲み「集団土下座」なんてこともする。



宗教儀礼をなぞって忠誠心を表しているのだが、その彼女たちのなかから扇動者が現れれば一部がカルト化する可能性は十分ある。歌詞の深読み、こじつけがはじまったら要注意。あと「三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE」ファンとの抗争も。



では、嵐のファンはいったいどのくらいの数なのかというと、ファンクラブの会員数でいえば、なんと150万人だという。ファンクラブに入会しないとコンサートチケットが入手できないのだそうだ。入会金は1000円、年会費4000円である。会費で年間60億円が動く。これだけで立派に中堅企業規模である。



150万人のうちの何人がアラシックなのかはわからない。しかしそう少なくないだろう。いささか不気味である。彼女たちは、おそらく学校や家庭や日常から解放されたいと願い、そのきっかけをアラシックであることに求めているのだと思う。人間や自然を超えた何かに出会いたいのだ。



少女たちはときとして突拍子もなく苛烈な行動に走ることがある。現代と時代状況が似ているとしばしば取り沙汰される昭和初期には、伊豆大島の三原山火口への連続投身自殺が起きている(1933年/昭和8年)。



ほぼ1ヵ月の間隔で飛び込んだ2人は実践女学校で先輩後輩の間柄であり、さらにもう1人の生徒が両方の自殺に立ち会っていた。こちらの生徒もほぼ1年後に自宅で急死している。自殺の理由は、簡単にいえば厭世感情や死への憧れによるものだ。



1933年には、切腹騒ぎを起こした「死のう団」が結成されてもいる。日中戦争まであと4年、太平洋戦争まではあと8年。その戦前であることをもって、この時代が現代によく似ているといわれるのである。しかしアラシックの登場が戦争の兆しだなどと単純なことをいいたいわけではない。



アラシックを考えていてふと思ったことは、閉塞した状況を打ち破りたい、現実をぶち壊したい、絶対を垣間見たいと願うのは男性だけではないだろうということだ。あたりまえだ。少女、女性だからといって、日本は戦争をしているときがいちばん美しい、などとは考えないと思うほうがおかしいのだ。そうだよ。現にそういうババアいるし。



そう、前世紀の終りくらいからなんとなく女性の時代だといわれ、それは調和と共生の時代で……、とかなんとかいわれても、どうもピンときていなかったのである。実際の戦争行為は男性が担ってきたのだが、だからといって女性はなべてその被害者だったというわけでもあるまい。犯罪の陰に女あり、という言葉もあるではないか。



女性と戦争といえば、銃後の守り、国防婦人会である。これは三原山火口への連続投身自殺が起きる前年、1932年に結成されている。しかも、もともとは大阪で一般の主婦が中心になって立ち上げた組織である。



いやいやだから女性だって戦争推進に協力しただろう、といいたいのではない。彼女たちもまた、家庭に縛られる日常から解放されたかったのではないのか、と思うのだ。事実、強力な反戦主義者である平塚らいてうや市川房枝も、ある種の女性解放をもたらした点において国防婦人会を評価している。



軍の強力な後押しで全国組織になった国防婦人会の「国防は台所から」というスローガンは、そういう女性を再び確実に家庭に据えようとしているようで興味深い。



ただ戦争をしたくて戦争をはじめるバカな国などない。さまざまな権益といった外的要因とともに、人々の心のなかの、内的な動機もまたあったはずだと思うのである。いくら軍部が情報を統制し、号令をかけても、そう簡単に「進め一億火の玉だ」とはならないと思うのだ。



私たち日本の内圧はいま刻一刻と高まっている。なにせ右でなければすなわち反日、のご時世である。「生き残るのは自分か世界か」と無謀にもテンパる日までもうわずかかもしれない。



大野智(34)、櫻井翔(33)、相葉雅紀(32)、二宮和也(31)、松本潤(31)の嵐の方々、ぜひ、アラシックがあまり暴れ過ぎないよう、また「嵐婦人会」なぞつくらぬよう、ヤサシック導いてほしい。ここに衷心よりお願いを申し上げる。    (了)




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