少々図に乗っている人類を懲らしめる方法を思いついた。ヒントは「モルゲロンズ病」である。「モルゲロンズ病」とは、皮膚がかゆくなり、掻くとそこから色とりどりの繊維が出てくるという奇病である。つい先日意識を失って救急搬送されたシンガー・ソングライターのジョニ・ミッチェルが悩まされていたことで一部では以前から有名だった。
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マダニが媒介する人畜共通伝染病のライム病を伴うことが多いともいう。ライム病といえばアヴリル・ラヴィーンが3ヵ月間も入院していたとの報道があったばかりである。ジョニ・ミッチェルもアヴリル・ラヴィーンもカナダ出身だから、なにか関連があるのかもしれない。と、ネット情報はこんなふうにして尾ひれがついてゆく。
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だがしかし、この「モルゲロンズ病」はネットを通じて感染する集団妄想なのである。CDC(アメリカ疾病予防管理センター)の2012年の報告でも「心身症」とされている。ジョニ・ミッチェルのようにいまでもその存在を信じる人はいるが、空から有毒な化学物質が撒かれているという「ケムトレイル」なんかの仲間、つまりオカルト話だ。実際、ネットで調べていくと、ナチの残党だとか国際陰謀論だとか都市伝説だとか、豊饒な暗黒世界に行き当たる。しかしネット経由の口コミ=バイラル感染の力というのはたいしたものである。
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そして、それが妄想からはじまっているにしても、色とりどりの繊維が出てくる(写真に記録している人多数)という人体の不思議さにも驚かされる。そういえば、ヴードゥーの呪いをかけられると生きている人の骨の中に縫い針が出現することもあるそうだ。なんだか学研の『ムー』だなあ。しかしプラシーボ効果は立証されている。小麦粉を薬だと暗示をかけてから飲ませれば、たちどころに熱が下がる。
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そこでだ、「モルゲロンズ病」のように新しい致死の病をでっち上げるのである。病名は「三死病」としよう。1人に感染すると必ず3人は死ぬといわれる恐ろしい病気なのである。ウィルスや病原菌ではなく、ある精神的ストレスの伝播によって罹患する。その“ある精神的ストレス”はネットを介して流通していく。そのあとの症状は暗示にかかった人の体が勝手につくりだす。
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まずはネットのヘビーユーザーがターゲットになるから、やはり初期症状は目のかすみ、目の乾きで設定しよう。それから頭痛、吐き気、発熱、痒み、発疹が起こり、それらが昂進し、やがて激しい下痢がはじまるとついに突然すべての心理的機制が外れる。理由なく人に噛みついたり、飛び降りたり飛び込んだりしちゃうのだ。
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噛みつく、というのはワールドカップブラジル大会でのスアレスのイメージが強烈なのでなかなかよい。で、結局本人が死ぬまでに2人は巻き添えになるので「三死病」。見分けるのは簡単で、発疹が文字なり図像なりの、なんらかのメッセージを体の上に示す。その内容は、おおむね死にまつわるものである。
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こうした一種のデマを、ストレスを惹き起こしそうな画像かなんかとともに拡散する。負のプラシーボ効果が最大限に発揮されるように、ネットをよく利用し、かつ暗示にかかりやすいグループを狙ってである。たとえばどこかの原理主義者なんかが対象の場合には、豚の顔をしたスカルマークが発疹で体に描かれるのである。この次にドラッグがらみでの噛みつき事件が発生したときが。タイミング的にはいい。バイラル感染、なんだかうまくいくような気がしてきたから怖い。 (了)
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